2016年5月 9日 (月)

2016年4月の読書メーター

読んだ本の数:4冊
読んだページ数:1102ページ
ナイス数:150ナイス

失敗史の比較分析に学ぶ 21世紀の経済学■ 
逢沢明

    「失敗史の比較分析に学ぶ  21世紀の経済学


 2016年刊。

 数理エコノミストが、正しい経済データを示して政府発表の経済データのウソを暴き、政策支柱のリフレ理論を批判、過去の大失敗を繰り返しそうだと警告。痛快だ。

 日本はデフレではなく、苦しいのは給料の減少のせい。政府がインフレを目指すのは借金減らしのため。

 禁じ手の「日銀の国債引き受け」が異常膨張。出口戦略がないので財政破綻のリスク高い。

 かつては破綻を避けるために侵略戦争を採ったが、負けたので地獄。円安・株安・債券安からハイパーインフレ、デノミや預金封鎖により国民の財産が消失。


 同じ轍を踏む安倍政権。

 大不況を乗り切るために軍国主義がとった戦略が、借金財政による大盤振る舞いと侵略戦争。

 日独とも資金源は中央銀行からの借金。日本軍は日本のみならず中国の中央銀行の通貨も使用。まさに悪魔の錬金術。

 安倍政権の異次元緩和もインフレにならず、株高・円安・金利安で庶民を苦しめる。企業業績のない借金による株価吊上げはいつかは破綻。

 「国の借金を増やすほど景気は悪化する」というデータ。クラウディングアウト現象で民間工事の減少が原因。景気回復には財政緊縮より財政出動が必要との論調が主流の中で、この意見は初耳だが重要。
 著者は経済成長重視の立場だが、「庶民が豊かになることが経済最大の原動力」との主張には頷ける。

 庶民の所得を抑えることが結果的に経済危機をもたらす。それは富者が仕掛ける経済ゲームで搾り取られた貧者の呪い。

 近代の失敗史はすべてこれで説明できるという。

大恐慌や戦争による経済危機も、もとは経済的格差に起因する貧困から生まれる。先進国と途上国の格差。戦勝国と敗戦国との格差。1%の富者と99%の貧者。

 供給側と株価にしか目を向けず、需要側の庶民を軽視し格差を放置すれば経済も社会も破綻するという真実を再認識した。
 やや大げさなタイトルだが、その位の気持ちで歩いて欲しいとの医者としての願いだそうだ。

 歩けば、自律神経を活性化、血流が良くなり、酸素摂取力や免疫力を高め、脳を活性化し、セロトニン分泌で幸福感を得る。

 生活習慣病や鬱病・胃腸病・癌・風邪への効果を説くが、どの程度効くかは不明。すぐ薬や手術に走る医療化も批判。

 健康になる歩き方の紹介は多少参考になった。

 歩けば頭も良くなり人生が変わるとまとめている。勿論、悪いはずはないが、やはり大げさか。

 余り新しい発見はなかったが、「医者に払う金があるなら靴に使え」は納得。



 私自身、ウォーキングの健康効果を信じて毎日1万歩目標に歩いているので、今回は歩行の質を高めるべく、歩き方を学んだ。

 「足だけで歩くのではなく全身で歩く」がポイント。

 ①頭頂部をひもで引っ張られているように、背筋を伸ばし胸を張る。

 ②丹田を引き締める。

 ③肘を後ろに引いて肩甲骨を動かす。

 ④骨盤を前傾させ腸腰筋を意識して左右に動かして太ももを前に出し、
   着地した踵の上に素早く腰を乗せていく。

 ⑤何も考えずウォーキングに集中する(セロトニン重視)か、
   脳トレをしながら歩く(認知症予防)。


読了日:4月20日


禅と日本文化 (岩波新書)■ 鈴木大拙 「禅と日本文化



 禅が日本文化の形成に果たした役割の論考で、1938年に英語で書かれた外国人向けの原書の訳書。

 なぜ中国でなく日本で禅が国民的な広がりを見せたのかという歴史経緯については良く分かったが、日本文化のどこが禅的なのかについては禅に関する知識不足のため難しかった。

 ただ日本の美術・武士道・剣道・茶道・俳句への影響を知ることで禅の凄さと日本文化の奥深さを知ることができ、もっと良く理解したいという思いを強くした。

 分からないながらも素晴らしく感じたのは、剣道における「無心」の重要性を伝えた沢庵和尚の柳生但馬守への書簡。


 ”向ふより切る太刀を一目見て、其儘にてそこにて合わんと思へば、
  向ふの太刀に其儘に心が止まりて、手前の働きが抜け候て、
  向ふの人に切られ候。”

 ”葉一つに目をかけずして、一本の木に何心もなく打ち向ひ候へば、
  数多の葉残らず目に見え候。”
                                   (沢庵和尚)

 断片的ではあるが、何となく理解できたのは、禅には悟りという禅体験がすべてで、悟りとは、知識・思慮分別・自意識を排除し、意識の深層にある無意識・集合的無意識・宇宙的無意識の力に身をゆだねることで、心配・煩悶・疑惑・躊躇などからは全く自由な心の状態を得ることのようだ。

 それは、武士が死を超越するときの心の状態であり、芸術家が霊感を得るときの状態でもある、ということだろうか。

読了日:4月18日


こころ■ 
夏目漱石 「こころ

 1914年初出。

 前半は、世間のしがらみに悩む主人公の私と、世間から隔絶して自由に生きる憧れの先生との出会い。

 後半は、先生の手紙による暗い過去の告白。

 人に騙され人間不信に陥った先生だが、あることで自分が親友を裏切ってしまう。そこから先生の罪の意識の苦しみが始まる。

 一体何があったのかと、読者の心を巧みに誘い込む。

 理屈通りにいかない人間の弱さを見つめ、揺れ動く心を克明に描き出している。

 結局、言うべきことを先延ばしにすれば、取り返しがつかないことになるということか。特に良心に反することは早めに告白をすべしと。


 なぜ先延ばしにするのか。先生の揺れ動く心の動きは先延ばしに対する様々な言い訳のように聞こえる。

 だが、思わず打ち明けてしまう場面がある。

 ”私の自然が平生の私を出し抜いてふらふらと懺悔の口を開かしたのです”。

 要するに、平生の私を出し抜いた強い私の自然とは、恋愛感情であり、嫉妬心であり、切羽詰まった激情だった。

 そして私の平生とは、恥を掻きたくない自尊心であり揉め事を避けたい弱い心ではないか。

 自分を捨て修羅場を引き受けるには激情によらずとも情熱と勇気があればいい。そんなことを先生は思い起こさせてくれる。

読了日:4月4日

2016年4月23日 (土)

2016年3月の読書メーター

読んだ本の数:5冊
読んだページ数:821ページ
ナイス数:204ナイス

稼ぐ「デザイン力!」―経営者・管理職のためのデザイン戦略入門
■ 大口二郎 
   『稼ぐ「デザイン力!」
         ―経営者・管理職のためのデザイン戦略入門



 経営者・管理職のためのデザイン戦略入門書。経営者がデザインに関わる上で疑問に感じるであろうことを、35のQ&A、i-phone/Wii/Cube/Prius等の商品事例、8企業の戦略事例で説明している。

 分かりやすいデザイン論にもなっているので、企画者や設計者の新人教育に役立ちそうだ。

 書名は露骨だが、デザインは売上に繋がるという事。

 ”デザインとは外見ではなく中身の表現”であり、商品コンセプトや企業価値を形にしたものであるという主張は頷ける。

 ただ商品企画を重視する分、デザイナーにはやや物足りない内容。


読了日:3月25日



世界のエリートが学んでいる教養としての日本哲学 
小川仁志
   「
世界のエリートが学んでいる教養としての日本哲学


 著者によれば、世界のエリートたちにとって日本の強さや魅力の根底にある日本独自の思考法=日本哲学が重要な教養となっているという。
 
 本書は日本哲学のエッセンスを、歴史・思考法・名著・必須人物・必須用語に分けてまとめた入門書。神道・仏教から現代思想まで、聖徳太子から吉本隆明までと実に幅広く取り上げており、今まで断片的にしか知らなかった思
想や人物の位置づけがよく分かった。

 特に思考法については「なる/従う/結ぶ/無になる/清める等、20項目に整理されており理解しやすい。

 やや安直だが、後は自分で原典に当たる他ない。

 著者は、より普遍的な西洋哲学を踏まえたうえで、対照的な発想をする日本哲学の知識を習得して然るべき時に発揮しようと言う。

 哲学をビジネスや政治に活用しようという姿勢には若干違和感があるが、あらゆる活動が思考に基づいて行われている以上、何らかの哲学に基づいているわけだから、「使える哲学」の発想は案外正解かも知れない。

 日本哲学というと、ナショナリズムや天皇制との関係が色濃い気がして遠ざけていたが、西洋合理主義の限界が明らかな現在、日本哲学を学びたいと思った。本書を案内に、興味のある所から原典に当たりたい。

読了日:3月20日


文藝春秋 2016年 03 月号 [雑誌]■ 文藝春秋 2016年 03 月号

■ 芥川賞関連以外の気になった記事。
  信頼できるリーダーの不在。

◆半藤一利×佐藤優「『新しい戦争』と日本軍の教訓」:

 ラインが軽視され、参謀が暴走して悲劇を生んだ陸軍の組織。その無責任体制と無反省気質、すぐ成果を求める短兵急な発想、中枢を仲間内で固める排他性などは、今の日本の組織にも残る。

◆エマニュエル・トッド「世界の敵はイスラム恐怖症だ」:


 フランスのエリートは宗教消滅による精神的空白を、お金と反イスラムで埋めようとしている。欧米が生みだしたIS。その戦士の多くは差別されたイスラム系の若者たちという悪循環。


■特集「88人の『最後の言葉』」は身につまされる。

◆竹田圭吾氏; 「いつ死んでもおかしくないから・・人生の残りの時間を逆に気にしなくなった。・・こだわらなくなったから、・・気が楽になった」。だが、「死に対する恐怖からは完全に逃れられない」と本音も。

◆「あなた一人を数ふ」と辞世を歌った河野裕子さんが永田和宏の奥さんだと知った。

◆戸塚洋二氏が紹介している正岡子規の言葉

 「(自分は悟りをこれまで誤解していたが)悟りといふ事は如何なる場合にも平気で死ぬる事かと思って居たのは間違ひで、悟りといふ事は如何なる場合にも平気で生きて居る事であった」

読了日:3月17日


死んでいない者
■ 滝口悠生 「んでいない者


 第154回芥川賞受賞作。 お通夜に集まった親族・関係者の様子を第三者的に描いた小説。

 登場人物が多く誰が誰だか良く分からないため、なかなか入り込めないが、関係や複雑な事情が分かってくると、多彩な人間模様に興味が湧く。

 ただ主人公がおらず並列的に語られて終わるため、テーマが分かり難
い。

 様々な日常を抱えた人たちが、故人との繋がりという一点で非日常的に集まることの面白さ、不思議さだろうか。

 実際、孫たちにとっては、祖父の死よりもいとこ達との再会の方が重い。

 故人を感傷的に偲んでいるのは幼馴染一人なのが切ない。

 
「自在に流動する語り手の視点の曖昧さ」がこの作品の形式的特徴。

 選考会では村上龍が「緻密さが不足」を指摘したが、他の委員は逆にそこを評価。


 確かに視点の曖昧さは感じたがすぐに慣れた。むしろ多くの登場人物が並列され、何が言いたいのか良く分からないことに苛立ちを覚えた。

 宮本輝は「その淡々とした営みの中に人間というもののけなげさをさりげなく描いている」と言い、小川洋子は「記憶していることより、忘れてしまったことの方がより鮮明な重みを持つ。そのことの不思議さを滝口さんは描ける人なのだ。」と評価。参考になった。

 私事だが、父の三回忌のために田舎に帰り、一年ぶりに親戚に再会した。

 法要の後のお斎の席でも父の思い出が語られることはなく、「死んでいない者」の近況報告や世間話ばかり。「死んだ者」は忘れられていく。

 「死んでいない者」は慌ただしい日常を生きていかなければならないから、それは仕方がないことだ。

 ただ、普段は忘れていても死者の記憶は意識の底に沈んでいるだけで、無くなった訳ではない。

読了日:3月11日


京大医学部で教える合理的思考 (日経ビジネス人文庫)
■ 中山健夫 京大医学部で教える合理的思考


 間違った判断をすれば命に係る医療現場で必須の合理的思考の技術を解説した教科書が原本。

 勘や経験やイメージではなく根拠に基づき、根拠は数字や実証的なもので、因果と相関を混同せずに、損と得は一緒に考える等々。

 医療法の採用判断等の具体的実践的な事例を使って解説しているので、とても分かりやすい。

 判断の材料となる正しい情報の見極め方についても多く触れており、専門家ではない一般の人が、どの情報を信用すべきかの判断にも役立つ。

 特に数字のマジックには騙されないよう注意が必要。世に溢れる情報の騙し技術の解説本にもなっている。


 必要かつ信頼できる情報がなくても、人は意思決定し行動しなければならないが、情報発信者には、騙すために流す人もいれば、意図せずに誤解しやすい情報を流す人もいるから要注意。

 情報のイメージに惑わされると判断を誤る。人は自分に都合のよい情報を信じる傾向があるので、流す方も受ける方も情報にバイアスがかかる。

 良い事あるいは悪い事しか言わない情報の背後には利害関係がある。

 数字のトリックがイメージ操作に使われる。

 メディアの情報は規制・抑制により編集・加工されている。カギは比較による偏りの除去。気をつけたい。

 
読了日:3月4日

2016年3月12日 (土)

2016年2月の読書メーター


読んだ本の数:3冊
読んだページ数:625ページ
ナイス数:185ナイス

異類婚姻譚
■ 本谷有希子 「異類婚姻譚

 ”ある日、自分の顔が旦那の顔とそっくりになっていることに気が付いた。”という書き出しから引込まれた。

 平凡な専業主婦の日常を明るくユーモラスに描いているが、そこには夫婦関係や親しい人間関係の問題が鋭く浮き彫りにされている。

 どんなに親しくても、完全には理解しあえない他人だとわきまえよとのメッセージ。べったり付き合うと、「蛇ボール」のように共食いしあって自分を失うからだ。

 結末は意外性に富んで、しかも美しい。ほっとした気持ちにさせるのは、二人がそれぞれ自分の場所を見つけたからだろう。

第154回芥川賞受賞作。


 夫婦関係は難しい。私自身、夫婦の時間も自分だけの時間も大切にして、その二つをバランスさせているつもりだが、時にそれが崩れてイライラすることもあるからだ。

 この旦那の場合、悪いのはだらしないことよりも、常に妻を自分の時間に巻き込んだり、妻の時間に入り込んだりしようとしたことだろう。

 妻が常に同類とは限らない。巻き込まれつつあった妻の「蛇ボール」からの脱出劇がこの作品のテーマだが、「顔が似る」とか「目鼻が崩れる」といった心理的にはあり得そうな兆候を通してその危機感を巧みに表現している。


 芥川賞選評では、すべての委員の高評価を得たが、物語のラストに関しては評価が分かれた。

 奥泉氏の”異界への感覚が描き切れていない”、川上氏の”作者にも予想できない「のび」のようなものがなかった”、というのはきれいにまとまりすぎたことへの批評か。

 私はさほど「薄気味悪さ」を感じなかったが、高木のぶ子の”「美と不気味さ」は「譚」の成立要素であり、日本説話の伝統から流れ来る地下水脈でもある。”との批評には教えられた。

 奥泉氏の言うように、この作品は”説話の枠組みの中へ現代風俗を巧みに落とし込んだ”ものらしい。

読了日:2月25日


石油・武器・麻薬 中東紛争の正体 (講談社現代新書)
■ 宮田律 「石油・武器・麻薬 中東紛争の正体」


 著者は、現代イスラム研究センター理事長。

 本書は、中東での紛争やテロがなぜ起こり、欧米や露・中がどう関わり、日本はどう関わるべきかを明らかにしている。

 武力による少数派支配、石油による富の独占と国民の貧窮、支配層の宗派の違いによる中東諸国間の対立、欧米諸国による石油利権の争奪戦、戦争を助長し戦争で潤う米英仏露の軍産複合体、中東国民を避難民かIS兵士に追い込む戦争といった構造が、丁寧に説明されており説得力がある。

 日本は、戦争依存の米国に軍事協力するのではなく、中東諸国の民生安定を支援すべきと説く。賛成だ。


 ”人は十分におなかを満たすことができなければ、食をめぐって争いを起こす。”

 ”「武力で平和はつくれない」―安保方案が成立したいま、私たち日本人は国際平和への関与の在り方を食の安全保障という観点からも真摯に考える必要があるだろう。”


 年商約4兆円と世界最大のアヘン生産地アフガニスタンでは、米軍統治下になって生産量が増加。

 米国の軍事費は連邦予算の55%。

 世界の武器市場の31%は米国製、うち32%は中東へ。

 米国石油企業をイラクの石油に絡ませるために始めたイラク戦争がISを生みだすきっかけ。

 儲かれば何でも売る。国のため民主主義のためという大義名分の裏で私利私欲追及。

 そんな欧米の経済原理よりも、紹介されている現代イスラム経済思想の利子・投機・浪費の禁止や喜捨による貧者救済の方がはるかに倫理的だ。だから腐敗した特権者へのムスリムの怒りは大きい。
読了日:2月20日


早春 その他 (文春文庫)
■ 藤沢周平 「早春 その他


 作者唯一の現代小説と知り興味深く読んだ。

 妻を亡くし娘と暮らす老サラリーマン岡村の話。

 会社では窓際族。長男に続いて娘も家を出る。馴染みのスナックも閉店。

 人間は所詮死ぬときは一人。早春の午後に吹く風の冷たさに象徴される孤独な人生の寂寥感が全体を貫いている。深夜の無言電話も孤独な人間の狂気の表現である。

 時代小説の中で現代に通底する人間の生き方や生きることの大変さを描く作者だが、家族や社会の絆の崩壊と孤立した個人の状況は、さすがに現代小説でしか描けなかったのだろう。人間の孤独感を描くことで現代を描いている。


 ”子供や家に対するあの熱くてはげしい感情は何だったのだろう。こんなふうに何も残らずに消えるもののために、あくせくと働いたのだろうか。窓の光はいつの間にか消えて考えに沈んでいる岡村を冷えた闇の中に取り残した”


 本書には2篇の時代小説と4篇の随筆が収録。

 小説はともに藩の派閥争いと敵の不正を暴き討つというテーマで、すっきり爽快な小説。

 随筆では「小説の中の事実」で、想像力で作る小説と言えども、リアリティを持たせるためにいかに多くの事実を集め、不足分を推理して書いているかが分かり、その大変さが知れた。

 「遠くて近い人」は司馬遼太郎のことだが、尊敬しつつもあまり読んでいないと言い訳している。

 エリートの成功譚を描く司馬と普通の人の暮らしを描く作者の違いがここにも表れていて面白かった。
 
読了日:2月5日

2016年2月 2日 (火)

2016年1月の読書メーター

読んだ本の数:5冊
読んだページ数:1194ページ
ナイス数:199ナイス


戦争する国の道徳 安保・沖縄・福島 (幻冬舎新書)■ 小林よしのり,宮台真司,東浩紀
      「戦争する国の道徳 安保・沖縄・福島」


 東氏が司会の鼎談。対立していた保守の小林氏とリベラルの宮台氏が共闘するという興味で読んだが、かなり刺激的。

 ともに暴走する極右安倍政権、同時に護憲派左翼を現実無視のタテマエ主義だと批判。

 九条平和主義は戦争を引込む安保=沖縄米軍基地=対米隷属に支えられているという矛盾。これを解くのは重武装中立しかない。

 日本は戦争する国になってしまったが、これは日米安保に甘え怒りを忘れた国民の責任である。日本に道徳はなく損得しかないのか。今こそ連帯して国民を舐めきった政治家に激怒せよと説く。

 勉強になったし趣旨にも賛同。

 学ぶことは多かったが、特に二つ挙げる。

 一つは、現代の世界の特徴。昔と違い今は、身体=社会はグローバル化で一体だが、意識=国民国家はバラバラ。

 そこでの人間の生き方は二つ、伝統や文化=アイデンティティを大切にするか(コミュニタリアン)、経済や社会=フラットなグローバル化でいいとするか(リバタリアン)。

 だが国民国家を支える共通感覚が無くなってきているいま、日本人が「日本人らしさ」を取り戻すという設定は基本的にもう無理ではないか、ということ。

 もう一つは国際関係で重要な手打ち。双方が滅亡するまで殺しあう悲劇を避けるために、納得してはいないが敢えて「そういう話にしておく」と相互拘束する協定。

 蒸し返さない約束だから、忘れないよう確認し続けたり、異論への説得の営みが重要。

 「信仰の自由」もそれぞれの超越を相互に絶対的に尊重する手打ち。

 国民国家の主権の概念も宗教戦争の悲劇を避けるための宗教的国家同士の手打ちだった。それを無視した米国の中東での政権転覆や指導者抹殺が、世俗的最高性(主権)を認めない反世俗主義ムスリムによる反逆を招いた、ということ。

読了日:1月31日
 


沖で待つ (文春文庫)■ 絲山秋子 「沖で待つ」


 第134回芥川賞受賞作。
 主人公の女性と同期入社の男性との社内の恋愛では なく友情の物語。

 会社生活を送った人間にとっては懐かしいような、職場や営業現場の様子がリアルに描かれているが、同期の気安ささながらに、くだけた会話が多い文章で読みやすい。

 「家族や恋人に見せたくない秘密を死んだ後どうするか」というやや軽いテーマだが、短篇にはピッタリ。キャラ設定とも合わせ全体をユーモラスに仕上げている。

 文庫に同時掲載の短篇「勤労感謝の日」は、嫌な見合いをした女性の話だが大いに笑わせてもらった。
 絲山さんのユーモア・センスに脱帽。

読了日:1月24日




生涯健康脳 こんなカンタンなことで 脳は一生、健康でいられる! (いきいき健康シリーズ)■ 瀧靖之生涯健康脳 
 ̄   こんなカンタンなことで 脳は一生、健康でいられる! 」



 著者は東北大学加齢医学研究所教授。

 本書は世界最先端の脳画像分析による認知力・遺伝子因子・生活習慣等の関係の研究成果。

 認知症は自然な老化現象ではなく、脳の血管や異常蛋白質の蓄積による病気。
 人の脳・認知力・病気等は70%が遺伝要因だが、30%の生活習慣を変えれば変わる。何歳からでも海馬の神経細胞は増殖する。という事を初めて知った。

 健康な脳をつくるには、前頭葉・海馬を刺激すること。有酸素運動・睡眠・知的好奇心・新しいこと・楽しいこと・音楽などが良い。飲酒・肥満は要注意。既知の内容だが習慣化するのが難しい。

 読書メーターでレビューを読んだり書いたりすることは、知的な好奇心を満たすし、有酸素運動は、ウォーキングや太極拳で習慣化できているが、どうも睡眠時間が不足しているようだ。

 睡眠は認知症の原因物質を洗い流すし、睡眠時間が短いと、体にストレスがかかり、海馬が委縮して脳の老化が速いそうなので、気を付けなければならない。

 また、常に新しいことに挑戦したり、デュアルタスクを意識的に心掛けよう。

読了日:1月20日



色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年■ 村上春樹 「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年


 親密だった高校時代の仲間から突然存在を否定され、心の傷を抱えたまま社会人となった主人公つくるが、ようやくその真相を確かめるべくかつての親友を訪ね歩くという物語。

 ミステリー仕立てになっており徐々に真実が明らかになっていく展開は緊迫感があり、最後の親友と再会するところまでは良かったが、その後はトーンダウン。

 結局年上の恋人沙羅にはすべてお見通しだった。人の心と心の結びつきに完璧はなく、自分の正直な感情を抑制すればいつか壊れる。感情をぶつければお互いに傷つくが、そこからしか本当の結びつきは生まれないと。

 「人の心と人の心は調和だけで結びついているのではない。それはむしろ傷と傷によって深く結びついているのだ。痛みと痛みによって、脆さと脆さによって繋がっているのだ。悲痛な叫びを含まない静けさはなく、血を地面に流さない赦しはなく、痛切な喪失を通り抜けない受容はない。それが真の調和の根底にあるものなのだ。」

 自分には個性がないとか、価値がないとかいう自信喪失の悩み。抑えきれない性的な夢想への自己嫌悪、自分の意識の内奥を見透かされたのではないかという恐怖、自分の正直な気持ちを言えない哀しみ、常に自分を隠し距離を置いた人間関係のむなしさなど、ここに描かれている主人公の悩みは、誰しもが若い頃に経験することであり、リアリティを感じる。

 そうした感情の抑制ゆえに、完璧に見え幸福感に溢れていたグループが崩壊する宿命にあったことは理解できたが、自分を踏み台にした仲間の女性を赦す理由は、なんとも理解しがたい。


読了日:1月10日



中国的建築処世術■ 東福大輔,市川紘司 「中国的建築処世術

   
 世界で建設中の高層建築の80%は中国という。

 圧倒的な人材不足故に、日本の多くの設計者・施工者・開発事業者が進出しているが、本書はそうした人々のために、日本とは異なる中国建築のルールや慣習をまとめたもの。

 実務的なことから歴史的文化的なことまで網羅されており役に立つ知識が満載。

 手柄を求める政治家の介入やトップが全てを決める発注体制、賄賂やキックバックなど、困難な側面も多々あるが、日本よりデザイン能力や大胆な計画の発想を発揮する可能性に満ちていると著者は締めくくっている。

 関係者にとっては必携の参考書だ。

読了日:1月3日

2016年1月 2日 (土)

2015年12月の読書メーター

読んだ本の数:4冊
読んだページ数:841ページ
ナイス数:156ナイス

TPPに隠された本当の恐怖―ついに明らかになった危険すぎるシナリオ
苫米地英人 「TPPに隠された本当の恐怖
            ―ついに明らかになった危険すぎるシナリオ」


 TPP大筋合意の協定文書を読んで著者は衝撃を受け緊急出版。1月のTPP国会批准を阻止せよと言う。
 政府は国民や政治家に中身を教えないまま、条約というよりペナルティ条項がびっしり書かれた契約書にサインしようとしている。

 恐ろしいのはISDS条項。米国企業が差別されたと告訴すれば、裁判で必ず米国が勝つ仕組み。

 日本の農業は乗っ取られて遺伝子組み換え食物が溢れ、日本が誇る国民皆保険も解体させられる。TPPは巨大多国籍企業の利益のためであり米国でも反対が多いが、日本のメディアは報道しない。本当に恐ろしい事実。

 TPPの条文を作ったグローバル企業は米国に税金を払わず、それを政治献金や広告宣伝費に使う。日本も含めメディアを支配して、TPP批判をする人間をこき下ろす。政治家を洗脳して彼らに都合のよい法律を通してしまう。

 TPPの狙いは彼らが日本の政府予算200兆円、国民資産1200兆円のすべてを手に入れること。

 TPPを阻止するには、国会批准を阻止すること、駄目ならISDS条項を抜くこと、最低限ISDS条項に原法人規制を入れること。でなければ投票しないと議員に伝えよと主張。

 堤未果の描いた「貧困大国アメリカ」がいよいよ日本にも迫ってきた。
 読了日:12月27日


オグ・マンディーノ 「世界最強の商人」


 世界最強の商人 (角川文庫)読メで知る。1968年初出。世界中の経営者たちが賞賛したベストセラーとか。

 イエスが生まれた時代の或る商人の成功物語という形式をとっているが、セールス成功のための10の原理原則をまとめた自己啓発本で、良い習慣、すべてに愛を、失敗は成功の元、独自性の発揮、今日が最後の日、感情の主人、笑い・微笑みの習慣、高い目標、今すぐ行動、神への祈りといった内容は、人生哲学そのもの。

 一つ一つはどこかで読んだような内容だが、まとめて突きつけられると、実践できていない自分の尻を叩かれているような気分になる。真理だとは思うが。

 ◆「私は、一度だけの出会いで人を判断しないようにしよう。今日会った時に憎  しみを示した相手を、明日、必ず訪ねよう。」

 ◆「私を傷つけ、涙を流させ、思わず呪ってしまうような人や出来事に遭遇した時、私はどうやって笑顔を保つことができるだろうか?そんな場合、私を救う魔法の言葉がある。・・・『これもまた過ぎ去ってゆく』」

 ◆「私の行動を引き止め、遅らせるものは、恐怖心から生まれる。・・・恐怖心を克服するには『ためらわずに、今直ちに行動する』ことだ。」
 読了日:12月27日



  
末裔 (新潮文庫)絲山秋子 「末裔 」


 子どもが独立し妻にも先立たれた一人暮らしの男に、現実にはあり得ない事が次々に起こる。

 だがそれは人間の心にとってはリアルだ。

 懐かしい昔の親族の記憶がかなり曖昧なように、親しい人を喪った悲しみや在りし日の姿は時間と共に薄れ、故人は次第に忘れられて行く。

 だが時間が短ければ、記憶が染込んだ家には平静な日常がないという事だろう。

 自分の存在も死ねばいつか忘れられる夢のようなものだという無常感が漂うが、だからこそ、生きている今を大切にしようというメッセージを感じる。

 重いテーマながらユーモアに溢れた楽しい小説だ。

    末裔に忘れられたところで、自分が死んでいれば悲しむこともないのだが、生きているのに忘れられるのは悲しいことだと普通は思う。

 だが、「忘れないでほしい」と願うことは、関わるという行為をあきらめているのだから、その人がすでに「死にかけている」ことではないのか。

 逆に、亡き人に思いを馳せるとは、亡き人が「心の中で生き返る」ことではないのか。その人との過去の関わりが自分に影響を与えたが故に、「忘れられない人」になるのだろう。

 だから記憶もない先祖に自分のルーツを探しても意味はない。

そんなことを考えさせてくれた小説だった。
 読了日:12月13日




日本人が知らない地政学が教えるこの国の針路菅沼光弘 「日本人が知らない地政学が教えるこの国の針路


著者は元公安調査庁調査第2部長。

 世界の大国は地政学に基づく軍事戦略によって動いているが、それを知らない日本は生き残れないと説く。

 米ロ中の戦略の解説は現在の国際政治を読み解く上で説得力がある。

 経済的相互依存関係や国際機構だけでは戦争は避けられず、安保法制の憲法違反より北朝鮮の核脅威や中国の尖閣攻撃への対策が重要であると言うのが著者の考えで安倍首相支持。

 だが、米国に頼らざるを得ない現実を認める一方で、実力をつけて従属しない日本をつくるべきだというが、『憲法九条の軍事戦略』のような具体的な提案はない。

    米国を無条件に信用してはいけない。米国の軍事戦略は、米国が世界を一極支配することによって戦争をなくすというものであり、米国人は神に選ばれたという宗教的な使命感に基づくものだという。 随分自分勝手な論理だが、宗教は洗脳力が高いだけに厄介だ。

 ギリシャ危機もウクライナ問題も仕掛人は米国であり、ロシアやドイツへの対策だという。TPPが中国包囲網であることは明らかだが、米国のキューバとの和解が中国対策だというのは知らなかった。

 中国が反日を言わなくなった理由についても述べている。やはり各国の戦略を知ることは大切だ。
 私には、地政学は大国のエゴの正当化であり、国民を洗脳する建前に過ぎないように思われる。自国民が生き残るためには、他国民を犠牲にするしかないという弱肉強食の論理。殺される前に殺すという戦争の大義。

 しかし裏には他国民のみならず自国民をも犠牲にして利益を得ようとする大国の支配層がいる。

 悲しいかなそれが世界の現実である以上、防衛力も戦争防止の外交努力も必要だろう。だが、何よりも必要なのは、国民が覚醒して軍事力行使に走る支配層に抵抗することであり、ともに犠牲を強いられる各国民が連帯することだと思う。
読了日:12月10日

2015年12月 2日 (水)

2015年11月の読書メーター

読んだ本の数:4冊
読んだページ数:1164ページ
ナイス数:175ナイス



ステップファザー・ステップ (講談社文庫) 宮部みゆき 「ステップファザー・ステップ 」


 プロの泥棒が主人公の7編のシリーズ短編集。

 しかも彼は訳あって両親に捨てられた双子の男の子の疑似父となる。

 3人が巻き込まれる事件の面白さもさることながら、奇妙な父子関係が変化する様子も見もの。

 疑似父役を最初は嫌がっていた主人公に、親としての感情が次第に生まれ始め、ホロリとさせられる。見かけの模倣が中身も変えてしまうのだ。

 そういえばこの小説全体が、入れ替わり可能な双子、なりすまし、鏡、コピーの町暮志木、模写札と偽札など、本物vs偽物をテーマにしているようだ。

 見かけに騙されるなという事だろうか。
読了日:11月28日


■ 起業家の時代が来た―若者よ起業しよう!嶋田高司 「起業家の時代が来た―若者よ起業しよう!


 著者はアメリカで起業して成功させた会社を売却し57歳で引退した方。2002年刊行だが、その認識は全く古くない。

 行き詰った日本を変えるのは若者の起業であり、そこに教育や研究等のインフラに積極的な投資をせよと説く。

 富の活用方法を知らない日本は、国民が蓄積した富をアメリカの国債に使っただけ。これでは国民は豊かさを実感できない。

 カギは、勤勉な日本の専門家たちの職能効率を上げる事。

 そのためには、専門家の外部との交流を進めること、サービス産業を成熟させることが必要だと指摘。

 日本の環境変化への適応の遅さが心配だ。
 必要があって、起業支援について調べていた時に出会った本の一つ。

 米国経済が行き詰ったとき、ITベンチャーが突破口になったように、日本でもITに限らず起業が必要なことは確かだ。

 国民の金融資産が1千兆円もあるのに、大部分の国民が日本は豊かだと感じることができず、勤勉に働けば働くほど余裕がなくなる日本。
その原因を著者は、インフラ整備が不十分なため、富のありがたさを感じさせるものがないからだと言い、その責任は大蔵官僚にあるという。

 老後の心配があるから貯蓄し、その貯蓄を有効に使えないのだ。政治が機能していない。

読了日:11月26日



創業力の条件―チャンスに満ちたマイクロビジネスの時代へ■ 加藤敏春

 「創業力の条件―チャンスに満ちたマイクロビジネスの時代へ


 著者は経産省のサービス産業の専門家。21世紀の世界を、企業ではなく個人の起業家をイノベーションの主役としたマイクロビジネスの時代として描き出す。

 1999年刊と古いが、今なお新鮮だ。

  ベンチャーがモデルだがハイテク産業に限らず、トフラーのいうように経済全体を起業家経済、社会を起業家社会に変革する必要性を指摘する。

 日本の起業の低迷は、日本が管理経済・管理社会であることを示しているし、日本経済の低迷は起業の低迷と関係している。

 組織の軛から解放された日本人が、個人として輝き社会を活性化する時の到来を切に願う。
 また21世紀においては、医療・福祉・環境・健康・教育等の諸問題は、国レベルよりも地域コミュニティ・レベルでの解決が模索されると指摘する。

 高齢者マーケットのような新しい市場がコミュニティ・レベルで創造され、市民起業家によるコミュニティ・ビジネスが発展する。
 
 そこではコミュニティのメンバーは、コミュニティに対してサービスを提供し、見返りとして働き甲斐と報酬を得る。コミュニティは協働を通じて結ばれる協働社会となるという。

 ヒューマンキャピタリズムや第三の道に通ずる。理想論のようだが、着実に進んで欲しいものだ。
読了日:11月26日



人生を面白くする 本物の教養 (幻冬舎新書)■ 出口治明 「人生を面白くする 本物の教養 」


 著者はライフネット生命の創業者。彼の人生観や生き方を語っているのだが、要するに、「人生を楽しもう」。

 そのためには仕事だけでなく、面白いと思う本を読み、人に会い、旅に出て、興味の範囲を広げる知識を勉強し、自分の頭で検証し納得し自分のものにすることが必要だと説く。

  日本がキャッチアップ社会だったために、日本人は仕事中心できたが、環境が変わり閉塞している今こそ、仕事や組織に縛られない個人の教養や考える力が必要で、仕事でも最後は人間性がものを言うのだと。

  合理的な彼の人生観とその実践に感嘆し又多くを学んだ。

 「教養としての時事問題」として国内外の諸問題についての著者のものの考え方を披露しているのが参考になる。

 問題の幹と枝葉を分ける、「タテとヨコ」で考える、定量的に視る、「数字・ファクト・ロジック」で具体的に考える、物事の本質はシンプルなロジックでとらえる、腑に落ちない知識は保留する、建前の裏の本音を考えるなど。

  また読書については、「分からない部分」は何度でも読み返す、速読は百害あって一利なし、新しい分野を勉強するときは分厚い本から入る、新聞書評で選ぶなどが、参考になった。
 本書で出会った著者の深い言葉。

 「人間が老人になっても生きているのは、人生で学んださまざまなことを次の世代に語り伝えることによって、次の世代をより生きやすくするためです。人はそのために生かされているのです。」

  もう一つ、キケロの名言。

 「自分が生まれる前のことについて無知でいることは、ずっと子どものままでいることだ」

読了日:11月12日

読書メーター

2015年11月 8日 (日)

2015年10月の読書メーター

読んだ本の数:4冊
読んだページ数:839ページ
ナイス数:203ナイス


          
欧米に寝たきり老人はいない - 自分で決める人生最後の医療
 宮本顕二・宮本礼子

 「
欧米に寝たきり老人はいない
          ――自分で決める人生最後の医療」


  本書は、共に医師である夫妻が、スウェーデン訪問がきっかけで日本の終末期医療の遅れに気づき、欧米豪6か国の実態を調査し比較考察したもの。

  「苦しむことなく安らかに死にたい」と思っても、日本では、社会や医師やマスコミの理解、医療制度、法制化等の遅れにより、それが容易ではないらしい。本人が望まなくてもすぐに苦痛の元となる延命措置が採られるからだ。

  欧米豪では、食べられるだけ飲めるだけにして自然死を迎えることが、常識になっているから、寝たきり老人はいない。

  日本も変わるようにより多くの人に読んでもらいたいと思う。

  今の日本で少しでも安らかに死にたいと思ったら、延命しない希望を家族および往診してくれるかかりつけの医者に伝えて文書にしておくことが必要なようだ。

  決して救急車を呼んではいけない。病院に担ぎ込まれると、必ず延命措置が採られるからだ。

  超高齢化社会で医療技術も進んでいる日本なのに、あまりにも悲しい現実。「点滴して生きている人生に何の意味があるのか?」という問いかけに、日本の社会全体が真剣に考えるべきだと思う。

  老老介護をしている私にとっては、本当に切実な問題。

読了日:10月31日




流

■ 
東山彰良 「  」


  主人公である台湾人青年が、過去の生活を時にはシリアスに、時にはユーモラスに語るのだが、彼の生活は祖父殺しの犯人捜しを中心に回っている。

  舞台は台湾から日本そして中国へとダイナミックに移動する。台湾人の生活描写もどこか懐かしい匂いがするし、犯人捜しのミステリーもスリリングで面白い。

  彼の祖父が生き抜いた抗日戦争や共産党との内戦の厳しい時代が、いかに台湾人の生活に大きな影を落としているかがよく分かった。

  戦争に駆り出された庶民にとっては、支配者は誰でもよく、生き残ることの方が重要だったことを痛感させる。

   小説の中に出て来る詩が印象的だ。
 「魚が言いました。わたしは水の中で暮らしているのだから、あなたにはわたしの涙が見えません」。

  ここでいう”水”とは何だろう。何にしても水の中に入り暮らしをともにしなければ、決して見えてこないものがあるということだろう。

  なぜか「日本人には台湾人の涙は見えません」と言われたような気がした。

  満場一致で選考された第153回直木賞受賞作。

読了日:10月21日




野火 (新潮文庫) 大岡昇平 「 野火 」

  米軍の攻撃を受けたレイテ島で、肺病のため厄介者として隊からも病院からも放り出された田村一等兵が、一人野山を彷徨い、敵への恐怖と飢えの苦しみで、精神も感覚も異常をきたしていく様子が克明に描かれ、戦争の恐ろしさを痛感させられる。

  生きるか死ぬかの極限状況では、味方すら敵になり、人間としての尊厳も捨てざるを得ない。

  生きるために本能に従って動こうとする右手とそれを無意識に止めようとする左手が、精神の分裂を示す。田村は左手の動きに神を感じるのだが、果たして自分の左手は動くのか。

  人間が生きる意味とは何かを問う。

  1954年刊行の小説だが、田村の次の言葉は、現在の状況においてもまったくその意味を失っていない。

  「現代の戦争を操る少数の紳士諸君は、それが利益なのだから別として、再び彼等に騙されたいらしい人たちを私は理解出来ない。恐らく彼等は私が比島の山中で遇ったような目に遇うほかはあるまい。その時彼等は思い知るであろう。戦争を知らない人間は、半分は子供である。」

読了日:10月5日




世界から戦争がなくならない本当の理由■ 上彰 世界から戦争がなくならない本当の理由」 


  戦後70年、世界では絶えず戦争が行われ続けてきた。本書は、戦後の戦争の概要と経緯を簡潔にまとめ、「戦争がなくならない本当の理由」のヒントを提示。

  知らなかったことも多く大変勉強になった。

  東西冷戦の影響、植民地の傷跡、独立後の分割や内戦の代理戦争化など、大国のエゴが目立つ。

  ”本当に怖いのは国民の熱狂”であり、民主主義のその怖さを学び反省したドイツと、責任追及を他人任せにして反省しない日本との違いは大きい。

  歴史に学ばないと「過ち」を繰り返すと強調するが、「本当の理由」は明確に語らず読者に考えるよう促す。

  戦争が戦争を生む負の連鎖をいかに断ち切るか、その答えは容易ではない。

  戦争を防ぐ仕組みである国連が、拒否権を持つ大国の対立のため紛争解決の手段として機能していない。

  この70年間に起きた軍事衝突に深く関わってきたのは、イデオロギーで対立した米ソであり、冷戦終結後の今も欧米と露の大国が自国の利益のために、他国の民族紛争に介入して代理戦争を行っている。

  自国の利益という大義さえも、実は支配層の利益なのに国民は容易に洗脳されてしまう。

  戦争を止めるのはやはり、犠牲を強いられる国民が真実を知り声をあげる事だろう。
  「日本には加害者でありながら被害者でもあるという二面性がある」ことが反省を曖昧なものにしたと池上氏は言う。

  未だに日本は属国のようにアメリカの世界戦略に組み込まれ支配されている。加害者としての反省を真摯に行い、生まれ変わったことを世界に認めてもらうことで真の独立を果たさない限り、日本は加害者としてのアメリカを告発することはできないと思う。

読了日:10月2日

2015年10月 8日 (木)

2015年9月の読書メーター

読んだ本の数:4冊
読んだページ数:1077ページ
ナイス数:181ナイス



サービス文明論: 「多様性」を支える時代が始まる■ 坪田知己 
  
サービス文明論: 『多様性』を支える時代が始まる


 本書は、「閉塞感を濃くしている工業文明から次の文明への橋渡しの構想を描いたもの」であり、脱産業社会を35年前に描いたA.トフラーの「第三の波」を踏まえつつ、その後の変化を取り入れながら脱産業社会をサービス文明として描く。 

 それは、「特定のお客様へのサービスにより、感謝(対価を含む)を得て、その繰り返しで信頼を醸成していく社会」であり、タイムシフト・連携・多様化・特定顧客志向・分権化・分散化・利他主義・関係の価値等の特徴を持つという。

 目新しさはないが、様々な動向をサービス文明という軸でまとめた点が新しい。

 サービス文明はこれから築いていくものであり、「工業文明が不特定多数への商品サービスの提供を『市場での競争』に委ねたことを反省し、利己主義・利益優先の悪夢から脱却することを目指す」というのだが、資本主義がどう変わるのかについては触れていない。

 また「作る」時代から「ニーズに答える」時代への変化に伴い、主導権は企業から消費者に移るので、働き方も教育もメディアも産業も変化し、最強の企業は「顧客の代理人」になるという。

 大きな動向は正しいとしても、中心となるサービス産業は、一般的に生産性が低いため、所得の不平等・雇用の縮小・財政の赤字のトリレンマが残されると言われるが、答えはない。


読了日:9月20日




明日この世を去るとしても、今日の花に水をあげなさい
■ 
樋野興夫 
  「
明日この世を去るとしても、今日の花に水をあげなさい


 著者は順天堂大教授でがん哲学外来理事長。

 癌になり陥る鬱的な症状を解消するために患者の思考を前向きに変える「言葉の処方箋」を綴っている。

 「命より大切なものはない」と考えると、死におびえて生きることになる。
”命は「命より大切な自分の役割や使命を果たす」ために与えられたのだから、自分の役割を見つけてそこに全力を尽くせば幸せになれる。

 人は人によって癒されるのだから、犠牲を払って他人のために何かをしなさい”と説く。本書のタイトルに惹かれ読んだが、人間の生き方の根源に触れる感動の言葉に満ち溢れていた。

 以下、気になった言葉のいくつか。

●他人と自分を比べない。昔の自分と今の自分を比べない。
   悩みの多くは、比   較から生まれる。

●コントロールできないことに一喜一憂しても疲れるだけ。
  得られるものは極めて少ない。

●いい人生だったか悪い人生だったかは、最後の5年間で決まる。

●人は苦しみながら頑張る姿に感動する。

●人は説得するものではなく、その気にさせるもの。

●人間に必要なのは正論より配慮、

●必ずしもよい師やよい友がえられるとは限らない。
  だがよい読書は誰にでもできる。


読了日:9月15日



 
文藝春秋2015年9月号特装版 (文春ムック)「文藝春秋2015年9月号」


■本号では、ドイツのEU政策に関する2件、安倍政治に関する2件の記事が面白かった。

●E・トッド:ドイツ帝国の指揮下で、欧州はローマ的普遍主義の南とルター派的権威主義の北に分裂しつつある。ギリシャが離脱すればユーロは終わる。

●塩野七生:敗者の立場に立って考える感受性のないドイツは、他民族からなる共同体のリーダーになれない。自己制御も不得手。

●保坂正康:安倍首相主導の政治的な「主権回復の日」式典への天皇出席要請は皇室の政治利用で、極めて危険。

●古賀誠:日本が戦争に参加できる国になるという怖さがある。


■佐藤優氏が「ベストセラーで読む日本の近現代史」の中で触れている又吉直樹『火花』への批評の鋭さ・深さに感動。

 長い間マイノリティでありその心情を深く知る徳永がマジョリティに近づいた時の、自己が引き裂かれそうになる内的世界を、マジョリティである神谷に理解可能な言語で表現することの難しさ、両者が理解できない現実を言語化することに成功したと言う。

 それを佐藤氏は、又吉氏とともにルーツである沖縄人の内的世界に重ねる。

 ふと現在の沖縄人の苛立ち・怒りを想い、紹介されている又吉栄喜『豚の報い』を読みたいと思った。

■速水融氏(慶大名誉教授)の「日本の人口減少、ちっとも怖くない」も勉強になった。

 出生率・死亡率の低下は、近代化に伴う自然の流れ。人口減少を逆手に取れば、生活に余裕・文化成熟。

 まずは経済最優先の価値観脱却が必要。問題は人口よりも人口過密度で適正規模は7千万~8千万人。

 但し日本は「減り方」が速すぎるので歯止め必要。社会進出した女性の出産・子育てしやすい環境整備が重要。

 地方の人口減少と都市への集中も問題。地方の中核都市やその周辺都市の再生が急務。

 核家族形態も少子化の原因。三世代同居家族への見直しも。

読了日:9月13日 著者:




新自由主義の自滅 日本・アメリカ・韓国 (文春新書) 菊池英博 「新自由主義の自滅 日本・アメリカ・韓国」


 新自由主義(グローバリズム)が如何に恐ろしいかを徹底的に解説。それは米国の金融界・巨大企業に富を集中させるための仕組みであり、彼らが政府を支配しているが故に、米国自体が弱体化し、それに支配された韓国も衰退した。

 対米隷従の安倍政権も新自由主義路線で日本を破滅させようとしているという。

 一方で、水野氏のような「ゼロ成長論者」も批判。投資による経済成長なくして福祉社会は実現できず、またアベノミクスの緊縮財政・金融緩和・規制緩和では経済成長できないことを詳しく説明している。

 非常に分かりやすく勉強になった。

 日本をデフレにして日本の余剰資金で米国債を買わせるという日本財布論。日本農業を破壊して市場独占し食料で日本を支配しようとするTPP。
 
 成功事例がないトリクルダウン理論を掲げ、市場原理主義によって累進課税の否定・解雇の自由化・国民皆保険の破壊などを進めるのが新自由主義の中身。

 著者が冒頭で紹介している世界的に著名な投資家ジム・ロジャーズの言葉が恐ろしい。「安倍首相は『日本を破滅させた男』として、歴史に名を残すでしょう。」
 
 国民の金融資産を海外に流出させている長期デフレの主たる原因は「民間も政府も投資不足」。政府が積極財政政策を採っても日銀と協力していけば金利が上がる心配はないという。

 成熟社会で投資対象が見つかるのかどうかが心配だが、「国土強靭化」と「国土刷新計画」によって生まれるとしている。

 それが経済全体に波及するのかという疑問には答えていないが、日本政府は公共投資の乗数効果を故意に低く見積もっていると批判している。

 ゼロ成長論が根拠にするゼロ金利は永遠に続くものではなく新自由主義の暴走によるものという説明に希望。

読了日:9月7日

2015年9月10日 (木)

2015年8月の読書メーター

読んだ本の数:4冊
読んだページ数:893ページ
ナイス数:185ナイス

スクラップ・アンド・ビルド 羽田圭介 「 スクラップ・アンド・ビルド 」 の感想
 
                            読了日:8月23日

 就活中の若者が実家に戻り、働く母の代わりに祖父の介護をするという話。

 介護は時に家庭崩壊に繋がるような重苦しいテーマだが、これをリアルでありながらユーモラスに描き、読者にある種の浄化をもたらす。

 介護者が老人を過剰に手伝うことや、全身チューブだらけの延命措置は、保身による思考停止の結果であり、逆に老人の自立を妨げ、苦しみを与えると皮肉っている。

 また老人が「死にたい」と言いつつも、本当は「生にしがみついている」ことも見逃さない。介護する方もされる方も、本音では語りづらい微妙な関係性が良く描かれている。 
 作者は、文芸春秋のインタビューで「自分と相容れない人の顔を直接見ることの必要性」が、この作品のテーマだと述べている。
 また朝日新聞では「極端な主張ばかり対立して、話し合いになっていない。でも、どっちでもない中間にある面倒くさいものが、人間には一番大切なんじゃないか」と、問題意識が明確だ。
 
 今後も切実な社会問題を切り離さず、かといってテーマ性に頼り切らずに書く、と述べているから今後も楽しみだ。

 選評でも、描かれた世界が好みでないとした村上龍以外のほとんどの委員が高く評価している。

 ”方法的なスリルがない単線的な小説である以上は、素朴に心を揺さぶるような展開や描写がもっと欲しいとは、思った”ものの最後は評価した奥泉光よりは、”自分の中の様々な「へん」を、誰もがささえきれず、苦闘していいる。小説は、その面白さと困難さ、矛盾をどうにかして、描こうとしてきた”という川上弘美の選評に賛同。”自分の家族の中にも、こういう感じってあるある”というリアルさは、介護経験者には痛いほど分かる。それを一捻りしてボケてみせ、笑わせるところが素晴らしかった。




火花 又吉直樹 「 火花感想

                           読了日:8月19日

 若手漫才師徳永が、師匠と憧れる先輩芸人神谷との交流を通して、競争が厳しい漫才の世界の内側を描く。

 テーマは、世間を無視して純粋に面白さを追求する神谷の感覚的な生き方と、売れるために世間に対する印象を大事にしたい徳永の常識的な生き方の選択。

 前者には終わりがないが生活が成り立たず、後者では売れても終わりが来るという矛盾。恐らく芸人としての作者自身がその間で悩み揺れ動いているのだろう。

 表現のうまさに比べ、内容は理屈っぽくて余り面白さも感動もなかった。冷静な徳永よりも、崩壊して行く神谷の方に惹きつけられた。
 徳永が、悩み揺れ動いた後に得た結論も、常識的だった。
 ”リスクだらけの舞台に立ち、常識を覆すことに全力で挑める者だけが漫才師になれるのだ。それがわかっただけでもよかった。この長い月日をかけた無謀な挑戦によって、僕は自分の人生を得たのだと思う。”
  ”神谷さんから僕が学んだことは、「自分らしく生きる」という、居酒屋の便所にあるような単純な言葉の、血の通った激情の実践編だった。”

 文芸春秋で選評とともに読んだが、「火花」への評価はやはり二つに分かれていた。

 「『火花』の成功は、神谷ではなく、”僕”を見事に描き出した点にある」とする小川洋子の評価よりも、村上龍の言う「作者の伝えたかったことが途中で分かってしまう」「不思議な魅力を持つ過剰や欠落がない」、あるいは奥泉光のいう「笑芸を目指す若者たちの心情への掘り下げがなく、何か肝心のところが描かれていない印象を持った」といった評価の方がしっくりくる。
 

わたしたちが孤児だったころ (ハヤカワepi文庫) カズオイシグロ わたしたちが孤児だったころ」 感想

                           読了日:8月14日


 前半は何が主題でどう読んだらいいのか、詳細に描かれた枝葉部分が多いので分かり難かった。

 少年時代を上海租界で過ごした主人公が、孤児となってイギリスに戻るキッカケとなった両親失踪事件を、著名な探偵となってから自ら解決しようと上海に乗り込む話。

 主人公が引き取った孤児の女の子がタイトルの「わたしたち」の由縁だが、内容のイメージに合わない。

 少年時代の記憶に残る出来事と事件との真実の繋がりが一気に明かされ面白いのだが、展開にやや無理があり昂揚感が削がれる。

 だがアヘンをめぐる上海租界の状況には興味を引かれた。

 作者は、当時のイギリス経済がアヘンの密貿易で成り立ち、少年の生活が貿易会社からの給料で成り立つという矛盾を描きたかったのかもしれない。

 中国人の反アヘン運動に賛同するイギリス人がいたことは救いだが、善意だけでは経済に勝てない。主人公が上海に乗り込んだ1937年当時は、日本軍が蒋介石の国民党政府軍を攻撃し始めたころ。ネット検索で、蒋介石も日本軍もアヘンの利権を奪い合ったのだと知って、悲しくなった。

 「満州は何によって支えられていたか、その下部構造を書かなければいけない。換金作物は阿片だけ。日中戦争とは20世紀の阿片戦争。関東軍と蒋介石が阿片を奪い合ったゲームだったのです。」
            (佐野真一『阿片王 満州の夜と霧』)



概念デザイン・メソドロジーによるコンセプト・メイキングの作法 山口泰幸
概念デザイン・メソドロジーによるコンセプト・メイキングの作法」の感想

                           読了日:8月9日

 「優れたコンセプトから優れた商品・作品が生まれる」という今日では当たり前になった考え方に基づき、優れたコンセプトの作り方、その前段の情報収集の仕方、コンセプトに合致したデザイン表現の方法についてまとめたもの。

 3つのプロセスをさらに11の状況・節目に分解し、ロジカルに展開。

 創造的なアイディアが論理から生まれるわけではないが、主体的に作った”創造場”に身を浸して情報やイメージのシャワーを浴びれば”降りて”くるという説明に納得。コア・コンセプトとそれを支える複数の柱のパッケージの考え方も良く整理されている。
 
 コンセプチュアル・パッケージの事例の中では、金沢21世紀美術館の分析が良かった。

●コア・コンセプト→「まちに開かれた公園のような美術館」
●柱1→世界の「現在(いま)」とともに生きる美術館
●柱2→まちに活き、市民とつくる、参画交流型の美術館
●柱3→地域の伝統を未来につなげ、世界に開く美術館
●柱4→こどもたちとともに成長する美術館
●デザインの方向性1→多方向性=開かれた円形デザイン
●デザインの方向性2→透明性=出会いと開放感の演出
●デザインの方向性3→水平性=街のような広がりを生み出す各施設の配置
 リタイアして忘れかけていた仕事への興味が湧いてきてしまい、手に取った本。一気に読んでしまった。

 どうしたら斬新なアイディア、魅力的なアイディアが生み出せるか、ということへの関心からだが、どうも現役時代の悩みを今もどこかに引き摺っているようだ。



読書メーター

2015年8月 4日 (火)

2015年7月の読書メーター

読んだ本の数:4冊
読んだページ数:1034ページ
ナイス数:184ナイス


「ドイツ帝国」が世界を破滅させる 日本人への警告 (文春新書)

エマニュエル・トッド
   「『ドイツ帝国』が世界を破滅させる 日本人への警告
                             (文春新書)

 フランスの歴史家・人類学者・人口学者トッド氏のEUに関するインタビュー発言集。

 ヨーロッパはいまや「ドイツ帝国」の支配下にあり、唯一対抗できるはずのフランスも進んでドイツに隷属したという。

 そして中国でもロシアでもなく、ドイツがこの20年間にアメリカ帝国と衝突すると予言。産業規模の逆転や価値観の対立(規律vs自由)がその背景だが、ドイツは支配権を持つと他国に服従を迫ること、ドイツを支配するのはメルケルではなくドイツ経済界であることも指摘。

 世界中の国家は今日、一般意志の体現者ではなく、金融資本を握る超富裕層が支配する寡頭政治の国家である。新自由主義の正体は、銀行による国家のコントロールであり、政府債務は民間金融機関の発明、政府債務は返済されない(紙幣増刷かデフォルト)との指摘は鋭い。

 但し、寡頭支配は国毎に異なる形で行われており、支配者間の序列はあるもののグローバルな支配ではないという。危機に陥った新自由主義のシステムへの対応は、各国民なりのやり方で、元々の文化に立ち返ることだとしているが、さて、立ち返るべき日本の文化とは何か。

 ドイツと日本の類似性と違いにも触れている。

 権威主義的家族構造や強い産業力、貿易黒字などの類似性に対し、違いとして、「日本の文化が、他人を傷つけないようにする、遠慮するという願望に憑りつかれているのに対し、ドイツ文化はむき出しの率直さを価値づけます。」、「日本では権威がより分散的で、常に垂直的であるとは限らず、より慇懃でもあります。」と指摘しているのだが、余りピンと来ない。

 むしろ「ヨーロッパにおけるドイツと同様に東アジアにおいて『帝国』を志向しているのは、中国であって日本ではない」と言う指摘に納得。
 
  歴史・文化・経済・人口の分析に基づく大胆な発言はかなり刺激的だったが、
本人は否定しているものの、「ドイツ嫌い」の感情が溢れている気がした。

読了日:7月30日



 第149回直木賞受賞作。
7つの短編が、一つのラブホテルの誕生から廃墟になるまでを逆に辿りつつ、そこを舞台に性を巡る様々な人生模様を描く。

 若いカップル、熟年夫婦、老年夫婦の他、寺の奥方と檀家、女子学生と先生など、少々変わった組合せも登場。当然、性描写もあるが、さらりとした表現できれいにかわす。

 それぞれに翳りのある男女の心が、繋がりそうで繋がらない寂しさと諦念がどこか漂う。だが同時に著者の温かい視線を感じてホッともさせるのだ。特に、『エッチ屋』とホテル管理人との純情でぎこちない関係には、思わずニヤリ。

 登場人物たちの中で、一番苦労しているホテルの掃除婦ミコの言葉にも救われる。

  ”人と人はいっときこじれても、いつか必ず解れてゆくものだと、死んだ母に
   教わった。”

  ”『いいかミコ、なにがあっても働け。一生懸命に体動かしてる人間には、
   誰もなにも言わねぇもんだ。聞きたくねえことには耳をふさげ。働いて
   いればよく眠れるし、朝になりゃみんな忘れてる。』 母ちゃんの言う
   とおりだ。”
 
読了日:7月20日



「熱狂なき株高」で踊らされる日本: 金と現金以外は信用するな!
副島隆彦
 2万円越えの株高は、安倍政権の株価吊上げ操作による捏造だと批判。

 GPIF(旧年福)、3共済、かんぽ生命、ゆうちょ銀行、日銀の公的資金を使った株式爆買いによる株高だという。

 27兆円の手持ち資金が尽きる2年後に資産バブルがはじけ、年金や貯金の損失のツケが国民に回る。しかもこの株価操作は同じ問題の先を行く米国との談合らしい。

 やはり米国の指示で日本国債の2割強を買わされた日銀。黒田総裁が認めたように、バーゼル委でリスク資産とみなされると国債も暴落の危機に陥る。

 ドル防衛のため金価格の不正取引を行う米国。世界最大の金保有国となった中国が英国と組んで金の値決めに参加することが決まり、ドイツも米国に預けていた金塊の回収に動いた。

 米国の覇権はいよいよ揺らぎだした。AIIBもその表れ。

 最大保有国の中国が米国債を売り始め、慌てた米国は不足分36兆円を日本から吸い上げようとしており、今後日本は益々衰退する。
 
 米国は日本の企業制度改革によって、日本企業の内部留保374兆円で自社株を買わせ株価を吊り上げようとしているという。

 安倍政権の日本はまるで米国占領下に戻ったかのようだ。

 株や土地を無理やり吊上げ、経済成長を作り出そうとするインフレ目標政策が間違っていたことが今や明らかになった。その根拠であるアメリカ経済学も破綻した。

 アメリカ帝国が世界を支配するための道具となった堕落した経済学を、ピケティが掘り崩そうとしていると評価し、著者は、消費的需要を作り出し雇用を確保することを重視したケインズに戻るべきだと主張する。

 最終章ではピケティの資本主義の第一基本法則α=γ×βに触れ、自分が発見したアパート経営の法則が証明されたと絶賛しているが、我田引水の感。
 怖ろしい事実がデータと共に示されていて大変勉強になった。

読了日:7月16日


 著者は元建設省河川局長を務めた土木の専門家。

 日本の都市にまつわる歴史の疑問点を、地形・気象・インフラなどの視点から読み解いているのだが、これが実にユニークで面白い。

 例えば「天皇陛下が裏門のような半蔵門から外出された」所を見て疑問を抱き、とことん調べ上げて、それが皇居の正門であったことを突き止める。それが次の謎を生み、最後は「忠臣蔵が徳川幕府の復讐劇」であった事まで明らかにするといった具合。

 まるでミステリーを読むような感じ。いい疑問は幅広い知識から生まれる事、調べることの面白さを教えてくれる。

 知らなかった歴史をたくさん教えられた。とりわけ治水の重要性。

 単に洪水対策だけではなく、湿地帯の多かった日本で、乾いた土地を作ること確保することが、権力者にとっていかに重要であり、技術者にとっていかに大変だったかを知った。

 また戦後の昭和まで、胸まで浸かって田植えをしている地域が複数残っていたことに衝撃を受けた。

読了日:7月4日

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