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2011年5月22日 (日)

利他と利己

本の名は、「働かないアリに意義がある」長谷川英祐著。副題は、「社会性昆虫の最新知見に学ぶ、集団と個の快適な関係」とある。以下、その主旨と感想。

「7割は休んでいて、1割は一生働かない」という帯のキャッチフレーズに誘われて読んだ。働かない口実を探そうというわけではなく、本能のまま合理的に動くはずのムシたちがヒトと同じようにサボるはずがない、一体どういうことなのかという素朴な疑問からだ。

答えは、「働かないハチやアリがいるのは、集団を存続させるため」ということ。幼虫の出す「エサをくれ」と言う刺激に反応して、ムシのワーカーたちはエサを集め幼虫に与える、つまり働くのだが、個体によって反応の感度が異なる。サボろうとするムシはいないが、すぐ働く刺激に敏感なムシからなかなか働かない鈍感なムシまで多様に混ざっている。エサが足りないと幼虫の刺激が強くなり、鈍感なムシも働きだす。つまり誰から指示されなくても、必要な仕事に対して必要なワーカーを臨機応変に動員することが出来る。働き続けて疲れたムシが休息しても、別のムシが動き出しワーカーがゼロになることはない。

もし全員が同じ感度で一斉に働くと、処理できる仕事量は大きくなるが、同時に全員が疲れてしまい、誰も働けなくなる時間が生じてしまう。卵の世話などのように、短い時間の中断でも致命的になるので、集団が存続できなくなる。これがムシたちの用意した進化の答え。ヒトの組織でも、画一的な個ばかりだと変化する様々な状況に対応できないので、長期存続のためには規格外の様々な個性を抱え込む余裕・余力が必要なのと同じである。

もう一つの興味深いテーマは、「働きアリやハチの存在。彼らはひたすら女王が産んだ卵を育てるワーカーとして集団の中で生きているが、自らの子供は残さない。つまり自らを犠牲にして、利他的すなわち社会的な行動をするのだが、これは『進化は将来の世代に残る遺伝子数を最大化するような形で起こる。』という進化の大原則と矛盾しないか。」というものである。

アリやハチでは、受精卵からはメス、未受精卵からはオスしか生まれない。オスはメスの半分量のゲノム(DNAのセット)しか持っていない。ワーカーは全てメスであり女王の娘であって、父のゲノムの全てと母女王のゲノムの半分を持っている。女王の生む卵とはワーカーの兄弟姉妹であるが、妹だけがワーカーと3/4重なるゲノムを持っており、弟や自分の娘より血縁度が高い。従って自分の子供を育てるより、母の娘すなわち妹を育てることを手伝った方が、自分と同じ遺伝子をもっと多く将来の世代に残せる。従って進化の原則に矛盾しない。ちなみにオスについては、生殖のために選ばれたオス以外は、ワーカーによって殺されてしまうし、交尾したオスはその後に死んでしまうという悲しい存在である。

利己者と利他者の間に血縁関係がなくても、群全体の一個体当りの生産性が、単独のときよりも大きければ、利他者が自分の遺伝子が残る確率が高くなるので、自分の子供の数を減らして利己者に尽くすという仮説もある。こちらの方がヒトの社会に近い。社会の維持のために働いているが、将来の報酬を期待し最終的には自分の利益を求めている。ヒトの滅私奉公も「生物としての進化」の形ではないかという。

また「メンバーが利他的に振舞う社会には、必ずフリーライダー(裏切り者・寄生)が現れる。」という話や「多細胞生物の個体が一つの『社会(群れ)』である」という話が興味深い。個体の全ての細胞は、同じ遺伝子をもつが、次世代に遺伝子を残せるのは卵子・精子のみで、その他の細胞は子供を残せない様々な器官に分化し細胞間の進化的対立のない完全な群体を形成している。しかしこの完全な社会に見える個体にですらガンという裏切り者がいる。

遺伝的に同質な個体からなる完全なる群体は、個体間に反応閾値の多様性がなく分業による効率性が得られず、また伝染病に感染しやすいという弱みを抱えるため、多数派にはならない。個体の多様性を持つ不完全な群体の方が、利己者と利他者の葛藤を抱えながらも存続の可能性が高く、こちらの方が進化した形であるというのも面白い。

不完全な群体では、個体はその存在基盤である群体の存続のために利他行為を行うことを通して、自分の長期的な利益を追求する。利他者は裏切り者の利己者に出し抜かれるが、利己者が勝つと群もろとも滅びる。そうならないよう裏切りを少しでも減らす監視システムが進化する。まさにヒトの社会も、不完全な群体として進化の途上にあるということが理解できた。

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