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2011年7月 6日 (水)

利他の起源(2)

人間の利他行動は、血のつながりのない人間にも及ぶ。まずは仲間内で直接お返しする関係=直接互恵性が進化した。しかし互恵的利他行動はチンパンジーでも行う。但し頼まれて初めて動く。頼まれなくても自発的に助けるのが人間の特徴である。他者から受けた親切を別の人に返す逆行的互恵性により親切の連鎖が進化して、更には赤の他人にも親切にする間接的な互恵性に進化していった。そこでは第三者の目が意識され評判を報酬として期待している。

互恵的利他行動への適応を通じて人間は、好き嫌い、義憤、罪悪感、友情や同情、嫉妬、感謝といった他の動物が持っていないような感情を進化させた。

しかし人間の利他性は更にその先へと進化している。「伊達直人」を名乗って匿名の寄付を行った人物は、評判すら気にしていない。そこには恐らく利他行動そのものを快と感じる、報酬と感じるしくみが出来上がっている。それはどのような機能を果たしているだろうか。

その前に、人間の歴史をもう一度振り返っておきたい。
森を追い出されたヒトは、そのまま食べられる食物を手に入れることが困難になったので、抽出食物や狩猟食物を食べるために集団をつくり協力して食料を確保した。集団間の採食競合に勝つために集団は大きくなり、成員の間のコミュニケーションのために知能とそれを支える大きな脳を必要とした。そして非常に便利な究極の信号である言葉を獲得した。そのことにより更に高度な知識や技術を手に入れることが出来た。

人間は集団の中で、観察学習や教育による知識や技術の蓄積すなわち文化によって環境に適応し生き延びてきた。文化は地域集団のメンバーによって共有され、それぞれの集団によって異なる。逆に、文化が異なると言うことは、別の集団に属していると言うことである。文化にはある集団と別の集団の区別を際立たせ、集団の成員にとってはその集団への帰属意識を強くさせる働きがある。

一方で、個体にも社会にも、「お返し」をしない「裏切り者」を発見し排除する「しくみ」が備わってきた。裏切られた怒りは大きいので、よく記憶され、微妙なゴマカシをする裏切り者も見分ける能力が備わっている。だから気前のいい人よりケチの人の方が記憶されるらしい。人間は様々な信号を相手から受け取り、利他者かどうかを見分けている。ただし言葉は利他性の正直な信号としては使えない。だから人間は直接顔を合わせて話をしたがる。たとえば嘘をつけない微笑みのような信号を求めるからだ。

逆に自分が、お返しをしなかった場合、まず罪悪感を感じ、第三者からの利他的評判を下げる罰や損失をこうむるが、集団が大きくなってくるとそれだけでは上手くいかない。集団は、コストを払ってでも裏切り者に罰を与え数を減らそうとする。この方が、報酬によって利他者を増やすよりコストが掛からないから、自然淘汰の原則に適っている。すなわちアメよりムチの方が効果がある。

集団は、集団のメンバーが、目先の利益に目を奪われて、盗みや殺人をしないように自分たちの行動を道徳規範によって縛る。道徳の基準は個人が属する集団によって異なり、道徳性は言語と同様、遺伝子にプログラムされた生得的なものではなく、集団の中で学習されるものである。人間は道徳性という仕組みを身に着けることで、更に大きな社会集団を形成することが出来た。

そして道徳性、すなわち困ったヒトを助けるのが道徳的には正しいからだという意識が人間の利他性を支える大きな要因となり、更に、正しいことをすること、利他行動そのものが快と感じるようになったのだ。そのようなしくみが、集団のメンバーの利他性を高め、集団の結束を高め、拡大発展を支える。

道徳性はさらに制度として確立され効率的に利他性を発揮できるようになった。たとえば契約と言う形で利害関係を明確にして裏切り行為に対して公的な罰を用意しておけば、より円滑に社会的交換を進めることが出来る。制度は、現代社会ではなくてはならないものとなった。個々人には、利他行動を成り立たせるための様々な認知的基盤を持っているが、もはやそれだけではうまく働いていかないほどの規模になってしまったからだ。

しかし、制度は完全ではないし、社会は思いやりと助け合いに満ちてはいない。むしろ制度自体が人間の持つ利他性を阻害する働きをすることさえある。
制度は人間が設計できるが、それを考える人間の心は進化によってもたらされたものであり、常に合理的であるとは限らない。従って制度を上手く機能させようとするならば、互恵性のような人間が進化によって身に着けた性質をうまくひきだすような形に設計されるべきである。

災害時には、同じ災害を経験したため、自分たちは一つの集団であるという意識を高めさせ、集団内の利他性が発揮されることがある。この「災害ユートピア」の中に、多くの示唆が含まれているのではないか。

この本により、大変多くのことを学んだ。また東日本大震災を通じて、我々は本当に多くのことを学ばねばならない、と思った。

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