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2012年9月19日 (水)

民主主義と言う神

適菜 収「ニーチェの警鐘―日本を蝕む『B層』の害毒」講談社+α新書2012を読んだ。

 ニーチェの有名な言葉「神が死んだ」は、キリスト教の神のことであるが、彼が言いたかったのは、「偽装した神」が現代に生き残っているということだというのは、初めて知った。その「偽装した神」とは、民主主義のことにほかならない。民主主義にはキリスト教的本能が受け継がれており、<弱者の普遍主義>により世界を支配しているという。

 戦後の教育で育った自分にとっても、民主主義は絶対に正しい思想のように思われていたのだが、民主主義が衆愚政治に陥ると、ナチスのような集団が選挙で支持され政権を取ることがあり得るとなると、考えざるを得ない。ムードに流され、コロコロと支持者を変える日本の選挙民を見ていると確かに心配になる。

 まして歯切れの良さで人気のあった小泉元首相が、国民を分類し意識的にファシストが使う手法で票を集めていたとなると、ぞっとする。今の橋下大阪市長の人気にも同じ臭いがする。しかし、もう一方で今の日本の閉そく状態を打ち破るには、まず抵抗勢力となっている官僚を統治する力のある彼らのような強い政治家が必要だとも思う。

 彼らからすれば、自分も操作の対象である大衆の一人に過ぎない。現に自分の意見と言っても、メディアや知識人から得た知識や意見に基づいており、影響されやすい。意図的に誘導されれば、どこまで洗脳されてしまうか分からない。すでに自由主義・民主主義・平等主義・人権尊重と差別反対の思想に洗脳されていると言った方がいいのかも知れない。ただ最近ちょっと疑問を持ち始めたと言うところではあるが。

 著者は、ニーチェを引用しながら、簡単には容認できないようなことを次々に述べている。民主主義・平等主義の否定、選挙制度の否定、官僚制度の支持、学歴社会の支持、男女平等の否定、中選挙区制の復活、選挙権・被選挙権の制限範囲の見直し、司法の独立の徹底=裁判員制度の否定、三権分立や二院制の堅持など、現在の日本の政治の流れとは逆の主張をしている。

 要するに民主主義が衆愚政治に陥り、果てはファシストに乗っ取られないようにするためのセーフティネットを堅守しようというのだ。総論としては分からなくもないが、各論を肯定するには時間がかかりそうだ。現に、ふらつく国民の総意に対し、参議院があるから、ねじれ現象が起こって常に何も決められず日本は停滞するのだ、とさえ思っていたのだから。

 仮に著者の言うことが全面的に正しいとしても、日本の政治は官僚に任せておけば間違いないとでもいうのだろうか?それとも新たな指導者が登場するのを待てというのか?良く分からない。仮に候補者がいたとして、それが任せるべき真正の指導者だと誰がどう判断するのか?アメリカのような選挙人を選挙で選ぶと言うようなシステムが必要なのか。勉強すべきことがどんどん大きく膨らんでくる。大衆の一人として、どこまで出来るのか心もとない。

■以下、本書の要約。
●はじめに
・「神は死んだ」は教会の神のことであるが、別の形で生き残り社会を支配との指摘。
・現代は「巧妙に隠ぺいされた宗教の時代」、「偽装された神」の時代である。

●価値の混乱
・小泉政権は国民をA~D層に分類。B層は進歩改革が好きなIQが低いターゲット。
・伝統的コミュニティの崩壊により都市部に発生。抽象的理念、民主平等人権を好む
・無制限に拡大する権利意識と被害者意識。常に騙されたがっている。
・マスメディアや知識人に影響されやすいB層をポピュリズムで騙す政治家。
・B層を騙す側にいた政治家が、B層になった。非見識な素人が閣僚にまでなった。
・あらゆる境界があやふやになり、全ての価値が混乱している日本の現状。

●ニーチェの警鐘
・大衆は自分に価値を認めず、他人と同じでありたいと考え、時代の波に流される
・ニーチェが批判したのはイエスではなく、その教えを歪めたパウロのキリスト教会。
・報復・罪と罰・審判・メシア信仰・三位一体・神の子などはイエスの教えにない。
・キリスト教は恨みと同情の力を利用し、弱者を引き込んで世界的な権力を獲得。
・自分の苦しみの責めを他人に負わせるという点で、社会主義も同罪。
・民主主義は個人の完全な平等性を妄想。絶対的存在の神との距離における平等。
・キリスト教の神が、民主主義平等主義のイデオロギーに姿を変え世界を支配。

・民主主義の根底にあるのは、ルソーの<一般意志>(公的な人民の意志の総体)とグローバリズムのキリスト教。
・平等主義は偉大な人間を抑圧し、価値のない人間を持ち上げるシステム。すべてをフラットにし、差別をなくそうとする運動が、暴力と文明の破壊につながる。
・民族の歴史から切り離され、超越的な理念により支えられた政体は、必然的に恐怖政治にたどり着く。フランス革命以降の理性に基づく大量粛清。

・キリスト教は<あの世>を利用して<この世>を支配するシステム。現実世界の背後に<真の世界><イデア>があるというプラトン哲学の発想が生きている。現実社会の彼岸に理想社会を立てる社会主義も同じ構造。
・客観的に物事を考え、理性的い判断を下せばすべてが解決するという近代思考をニーチェは批判する。<世界>は認識者の視点により変わる人間が解釈した<虚構>。生物は生きていくのに有利になるように<世界>を解釈する。そこにあるのが生に対する<保存・成長の欲望><権力への意志>である。
・ニーチェは民族や自然から切り離されたキリスト教の不健康な神は否定するが、民族の価値を投影した民族の神を健康な神として認める。虚構だが民族がより良く生き抜くための知恵として。
・ニーチェが描く健康な社会は、特権を持った少数のエリート、彼らを支える権利の保護者・軍人・裁判官、そして大多数の<凡庸な者>である大衆からなる<正しい格差社会>である。

●B層グルメとBポップ
・B層が聞くBポップでは、音楽より別の要素が重視される。優越感を満足させる同情を引くような、健康的ではなく病的な要素。
・B層グルメは、マスメディアに踊らされる
・食べログもミシュランも信用できない。彼らの価値基準がB層社会の産物だから。

●知識人はなぜバカなのか?
・フロイトやユングは証明できないのでオカルト。宗教と同じで反論できない。
・吉本の物言いは無責任。根拠を示さず好みや感想をいうだけ。
・チェスタートン「狂人とは理性を失った人のことではない。狂人とは理性以外のあらゆる物を失った人である。」
・近代大衆社会においては教養人が姿を消し、知識人が暴走する。反知性主義が猛威を振るう。

●B層政治家が日本を滅ぼす
・マニフェストは努力目標と言い換える詐欺師タイプ
・抵抗勢力、官僚等のわかりやすい敵を設定して不平不満を煽るタイプ
・琴線に触れる言葉、タレント、メディアへの露出等の撒き餌を利用するタイプ
・有権者の成熟が必要と言われるが、成熟することはない。
・政治主導、民主化の流れをくい止めるべき。中選挙区制の復活、選挙権・被選挙権の制限範囲の見直し、司法の独立の徹底、三権分立や二院制などの民主主義に対するセーフティネットの堅守などがあげられる。

・未来と過去に責任を持つ人間、正気を保っている専門家・職人が政治的判断を下すしかない。
・立法府の腐敗を前提とした「政治のシステム」を維持していくことが重要。
・知性や学問を否定してもいいことはない。学歴社会は健全。
・学閥のある日本の官僚支配は優れた制度。
・ニーチェによれば男女平等は悪質なフィクション。「完全な女性は、完全な男性よりも高級な人間類型である」
・女が政治にかかわり男のように振る舞うことにより女性特有の魅力を失う。

・独裁政治を目指した菅直人は、官僚制度や三権分立を否定。橋下徹も独裁政治を目指している。
・愚かな人間が愚かな政治家を選んでしまうと衆愚政治になる。原口一博は大衆迎合で政治学の基礎知識が欠如
・アレントの政治哲学「ナショナリズムは帝国主義の阻害原因になる。」
・国民は平等というのはフィクションである以上、選挙なんかで世の中を変えることは危険。
・ナチスは狂気の集団としてではなく、市民社会の中からごくふつうに登場し、市民社会の正当な手続きを経て、カタストロフィに突き進んだ。

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