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2013年1月 6日 (日)

「『自己啓発病』社会」を読む

■宮崎学「『自己啓発病』社会」(祥伝社新書2012)を読んだ。

  スマイルズの「自助論」については知識がないが、この本を読んで自分がかなり自己啓発書に影響されていることを発見した。「他人に頼ることなく自分で努力して自分の道を切り開くこと」の大切さは間違っていないと今でも思う。ただそれが、競争による差別化の道具になり、結果的に日本に格差社会をもたらした小泉構造改革の影響だと言われると、なるほどとも思う。自助のあり方が問われている。

  かつては1億総中流と言われた日本社会なのに、今や非正規労働者が3割で、低中所得者層が主流となり、年間3万人以上の自殺者が13年連続で出ている社会。給料は上がらない一方で、社会保障はどんどん削られていく。将来が不安でお金を使わないので、企業も投資できないと言う悪循環。それらは皆、日本経済が不調なので仕方がないと思われているが、本当にそうなのか?新自由主義といわれる政策の結果ではないのか。

 新自由主義は成熟して経済成長が止まった国家が、社会保障費の増加に伴う財政難を切り抜けるところから始まった。税金を上げて社会保障費を削り、国民は国に頼らず自助努力せよ、というわけだ。しかしもともと日本の社会保障費は欧州に比べて決して高くないから、日本は弱者に冷たい国だと言われているのだ。それを削るからますます社会不安は大きくなる。日本の消費税は安いから仕方がないと言われるが、全ての税金を合わせると国家・行政は国民から 4割近くも収奪している。しかも一般会計予算の倍以上の特別会計予算を国民のチェックも受けずに勝手に使っている。そこに切り込もうとする政治家は官僚によって政治生命を絶たれる。

 なぜこうなるのか。この本の中で見つけた答えは、日本が本当の民主国家ではないからだということ。日本の近代化は個人の自由獲得闘争による近代化ではなく、日本が列強に対抗するための上から作った近代化である。従って個人主義・自由主義の基盤が弱く、国民の間に「政・官はお上」という意識が残っているからだ。建前上は主権在民なのだから、国民はもっと声を上げて国に文句を言うべきなのだ。政治家の尻を叩いて官僚独裁国家を解体し、本当の民主主義国家にすべきなのだ。東日本大震災の被災者たちは本当に我慢強く生活しているが、国にもっと文句を言うべきだし、我々も他人ごとにしないで文句を言うべきだ。

 しかし一方で、震災は新しい自発的な自助・共助の芽を育てた。被災者共同体が生まれたし、ネットによる支援の輪が広がったし、市民による反原発のデモも起きた。国には頼れない、任せられないとして立ち上がった市民が連帯して助け合う協同体が生まれたのだ。人間は一人では生きられないし、利己主義者は集団の中で生きられない。自分を助けるためにも他人を助ける必要がある。だから自助は利己的な自助でなく利他的な自助であるべきだ。人間社会は本来「互恵社会」であるはずなのだ。それを阻害するような社会システムがを変えなければならないのだ。そんなことを学ばせてもらった。

 著者がいうように勤勉努力が報われる成長の時代は終わったのかも知れない。これからの自助は、創造活動のような自発的・自足的な自助であるべきだと言うのも、一部の人たちの話としてならば分かる。それを社会システムとして作り上げるのは、一定の経済成長を前提にすると気が遠くなるような夢のような話だが、これからの社会が目指すべき方向ではあると思う。簡単に言えば、日本人は奴隷のような従順さに縛られることなく、欧米人のようにもっと自由になるべきだということでもある。

■要点まとめ
1.「セルフヘルプ」という病
・自己啓発ブーム=自己中心的ポジティブ人間の育成=「努力すれば誰もが成功」
・自己啓発は他人を押しのける「利己的な自助」=実は競争による差別化の道具。
・成功しなかった人は自己啓発の努力が不足していたからで、それは自己責任。
・公の領域に競争原理を導入した小泉構造改革による新自由主義の影。無自覚症状の病
・「公に頼らず自分の人生は自分の手で開け」とスマイルズの「自助論」を推奨。
・官の支配構造を壊さずに、民間における相互扶助の仕組みを壊し格差社会を作った。
・地域経済の地域での結びつきを壊したため、自助による震災復旧・復興が弱かった。
・新自由主義の帰結=中流の没落=一握りの勝ち組と日本社会の中心となった負け組

2.ゆがめられた『自助論』
・スマイルズの自助論はプロテスタンティズムの職業倫理=勤勉努力による天職の全う
・スマイルズは「利己的自助」を退け、「相互扶助と両立する」としている。
・自助は成功を求めるものではなく、人格をつくること。個人の尊厳を打ち立てること。・「個人の尊厳」が抜け落ちたことは、自助論だけでなく日本近代の本質的問題。
・個人の自由による近代化ではなく列強に対抗するための上から作った近代化。
・明治政府の大胆な能力主義・業績主義の人材登用が「勉強立身熱」の風潮を生んだ。
・明治初期の勉強青年は、利己的な自助でなく家と郷党に報いるために刻苦勉励した。
・近代的な自由な個人でなく非近代的なイエ・ムラ原理の部分社会の中の個人の競争。
・1980年代に先進国病の特効薬として蘇った自助論。国民の国家依存と財政の悪化。
・マネーゲームと格差社会を生んだ新自由主義の原点はサッチャーとレーガン。
・小泉政権は西洋とは異なる非個人主義・非自由主義の基盤の上に新自由主義を展開。
・上からの自由化となり失敗。西洋近代とは違う「自由な個人」の社会をつくる必要。

3.自助と互助と共助
・幕末日本には最低限の生活を維持するための自助と互助と共助の社会が自然にあった。・西洋に倣って導入した国家による公助が、コミュニティによる互助・共助を解体。
・2001年小泉改革は、自助努力の幻想で解雇の規制を緩和し、労働組合の互助を解体。
・東日本大震災は、互助・共助意識を再生させ共苦の倫理が芽生える契機となった。
・被災者共同体が生まれ臨時の現場リーダーが中心となって現場秩序が形成された。
・冷静な行動が賞賛されたが、他人に迷惑を掛けないよう我慢するのは自助ではない。
・生き延びるために外に働きかけ、行政や政府を動かす自助が日本人には欠けている。
・民主主義とは自己統治であり、統治される者は同時に統治する者である。
・政府はお上であり国民はお願いする立場のような日本は民主主義ではない。
・政府に頼れなければ救援してくれる市民と結びついて開かれた自助を展開する必要。
・相互扶助がなければ自助はない。協同と表裏一体となった自助=利他的自助
・戦後知識人は個人が無自覚に埋没する共同体を解体しようとした。
・自然な共同関係を基盤にし、組み替えた協同関係と自助意識こそが求められている。

4.「勤勉」と「成功」の終わり
・勤勉が美徳になったのは、産業革命による工場の賃金労働を価値づけるため。
・賃金労働は、それ自体に意義や目的を含まない生活手段としての労働。
・カジノ資本主義は勤勉ではなく才覚、忍耐ではなく敏捷、蓄積ではなく投機を求めた
・13年×3万人の自殺者。20年不況のもたらす不安感とリンクしている自己啓発ブーム。
・無力感、諦め感が政治的アパシーとなり、危険な政治家や自殺的な政策に熱狂する。
・勤勉の時代の終わり、勤勉が成功を呼ばない成長無き時代を生きなければならない。
・古典的自由主義のスマイルズの限界。
・古典的自由主義=自由な交換の場=市民社会がそのまま協同を含んだ自助社会になる。・スマイルズの勤勉な自助は産業社会の要請する必要や目的に従属。
・これからは科学や芸術のような自発し自足する自助に変わる。
・市民社会はそのままでは協同を含んだ自助社会にならないことがはっきりした。
・利己的自己を追求し、協同社会を否定する新自由主義は、スマイルズ自助論も否定。
・新自由主義自助論を打破し、さらに限界のあるスマイルズ自助論も乗り越える必要。
・個人個人の自助が相互に働いて相互扶助が成り立つ社会=協同を含んだ自助社会。
・同じ状況に直面した全員が同じ自助の構えを持つ時、自助が他助になり連帯が成立。
・自分だけ助けようとする者(利己主義者)を他人は助けてくれない。互恵不能。
・利他的自助=他人を助けるのは自分を助けるため
・利己主義者は必ずバレるので弾き出され、利己主義者が支配する集団は自滅する。
・人間社会は本来「互恵社会」である。(藤井聡)
・競争し合う公認社会の中に、相互扶助しあう真実の部分社会が隠されている。
・真実の社会は、災害時のように公認の社会が崩れてしまった時に姿を現す。

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