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2013年4月23日 (火)

「若者を見殺しにする国」を読んだ

赤木智弘「若者を見殺しにする国」朝日文庫(2011)を読んだ。

■ 衝撃的な本だった。それはこのような本を書ける知性がフリーターであること、また若者が自殺を考えるほどに困窮しており戦争で死ぬ方がまだましだと考えているという事実に対してである。著者は、「論座」2007年1月号に「『丸山真男』をひっぱたきたい―三十一歳フリーター。希望は、戦争。」という論考を発表し、論壇を揺るがせた。この本には、その文章とそれを批判した著名な知識人たちへの反論が載っている。フルに働いても生活保護受給者より貧しいワーキングプアの問題を、放置し続ける日本社会はやはりおかしいのではと考えさせられた。

■ 彼の主張を要約すると、次のようになる。

 バブル崩壊直後に、就職の時期を迎えた団塊ジュニアの世代の多くは、不況による雇用の減少の煽りを受け、その多くは正社員という安定労働者にはなれず、アルバイトや派遣労働者となった。その一人である自分は年収が130万円程度なので、親の家で暮らすしかなく、まともな暮らしも家族を持つことも出来ない。親が働けなくなったら自分は生きていけず、餓死するか、首を吊るしかない。だから「金をくれ!」「仕事をくれ!」と叫ぶのだ。

 格差問題の是正を主張する左派は、これまでにより多くの消費をしてきた高齢者には、豊かな生活を保障し、少ない消費しかしてこなかった若者は貧困でも構わないという考え方に立っており、救済レベルに大きな格差をつけた。また、企業はリストラにおびえる中高年の救済を優先し、新規採用を減らした。高齢者の継続雇用制度も若者の新規採用を妨げた。左派が擁護する安定労働層は既得権者であり、若者貧困層にとって敵対の対象だ。

 経済が右肩上がりの時代は、流動性がなくても問題はなかった。しかし右肩上がりの時代が終わり流動性のないまま平和が続けば、このような不平等が一生続く。若者が右傾化し、ネオリベ小泉政権を支持したのは、既得権者の利権を解放すると言ったからだ。また日本が軍国化し、戦争が起き、たくさんの人が死ねば、日本は流動化する。多くの若者は、そこに望みを託す。

 丸山眞男は平和と戦後民主主義の象徴だ。太平洋戦争中、思想犯としての逮捕歴があった丸山は、陸軍二等兵として平壌に送られ、中学にも進んでいないだろう一等兵に執拗にいじめ抜かれたという。流動化によりこのような逆転のチャンスを生んでくれる戦争に期待する。

■ 以上が骨子だが、これに対する知識人たちの反論は、彼も言うように、平和の否定や戦争肯定に噛みつくばかりで、彼の主張や叫びにまともに答えているようには思えない。フリーターの苦痛を軽く見ており、彼のいう「死んだ方がマシな状況」などあるはずがないと思い込んでいるようだ。

 赤木の本意は、戦争をしたいわけでも平和が嫌いなわけでもない。まともな雇用が欲しいだけだ。彼なりに色々検討した結果、万策尽きて結局、戦争にしか希望が持てなくなったのだ。そんな人間を放置してよいのかと、社会に問うているのだ。

 総務省労働力調査によると、平成24年度の被雇用者数 5154万人のうち、非正規労働者は1,813万人、35.2%に及ぶ。非正規労働者の賃金は、年齢が上がっても上がらないのが鮮明で、正規の新入社員並みの賃金のあたりをほとんど横ばいに推移する。40代で比較すると非正規は正規を100%としたとき、男性で64%(218万円)女性で69%(175万円)である。
 
 因みに、年収200万円(手取り月額約15万円)以下がワーキングプアと言われるが、そのほとんどは非正規労働者である。ワーキングプアの比率は、厚労省の賃金構造基本統計調査から、男性は全体の16.6%、女性は43.1%であることが分かる。総数を総務省の数字として計算すると、男性475万人、女性986万人、計1,460万人、全体の28.3%が、ワーキングプアという勘定になる。非正規労働者の8割がワーキングプアである。

 非正規労働者の比率を年齢別に見ると、15-24歳の47.2%=218万人、25-34歳の26.4%=297万人となっており、35歳未満の非正規労働者数は、およそ500万人で、働いている若者の35歳未満では3人に1人、25歳未満では約半分が貧困で苦しんでいることになる。

 現在の日本では、働いている人の2/3が正規労働者で、1/3が非正規労働者である。労働者層は、正規と非正規の二つの階層にはっきり分かれてしまった。しかも少数派で弱い立場にいる非正規労働者の発言力は、正規労働者に比べ圧倒的に弱く、支援する組織も少ない。社会的に表面化はしていないが、明らかに二つの労働階層は対立しているのだ。このような状態で、日本がまともな社会だとは、とても言えないだろう。

 赤木は「企業は偽装請負、サービス残業、裁量労働制で人件費を押さえ、人で不足は派遣労働者を短期だけ受け入れ、不要になれば解雇した。」と企業を断罪する。小さな会社で役員をしていたことのある私が企業側の立場から見ても、彼の指摘は全く正しいと言える。ただ、それを積極的にやっているわけではないし、悪意を持ってやっているわけでもない。企業が資本主義社会の中で競争をしている以上、生き残るためには法的に認められている非正規社員の採用をせざるを得ないのだ。

 資本の論理を倫理で抑えることは無理だ。資本の論理をコントロールできるのは法律以外にない。法律を決めるのは、政治家であり、政治家を選ぶのは国民だ。政治家・官僚・財界の力が、圧倒的に強いにしても、結果を許容しているのは国民だ。

 終身雇用制・年功序列が支配していたかつての日本企業ではこんなことはなかった。1999年、2003年の労働者派遣法改正で、すべての業種について派遣が可能になった辺りから社会が変わってしまった。派遣労働者は非正規労働者の5%程度でしかないが、この法律に、非正規労働者を使い捨てしたいという政府・財界の意向が明確に現れている。彼らが、派遣労働者の人権よりも企業の利益を優先したのだ。さらに、多数派の正規労働者も結果的には、それを支持したことになる。

 2008年のリーマンショック後に派遣切りが増え、初めて社会問題化したため、野党を中心に製造派遣や登録型派遣の禁止を盛り込んだ派遣法の再改正の動きが出始めたが、結果的には2012年に日雇い派遣の禁止などが一部実現しただけに終わっている。デフレ不況の続いた日本では、正規労働者も自分のことで精一杯であり、少数派の非正規労働者を救おうという動きは依然として弱いのが実態だ。

 派遣事業を規制しただけでは、却って非正規労働者の雇用の場が失われるという側面があることも見過ごせない。必要なのは、雇用を増やすことであり、そのためには経済成長をさせるか、ワークシェアリングをするしかない。

 新自由主義の政府・財界は、最初から貧困層のことは考えない。経済成長で企業が儲かれば、雇用も増え、労働者の賃金も増えるのだから良いだろうと考える。貧困層になるのは努力不足ですべて自己責任だと考えているから、手を差し伸べることはない。

 社会保障を十分に確立しないまま規制緩和すれば、よほどの経済成長がない限りは貧困層はなくならない。また逆に、経済成長がない状態で、社会保障を厚くすれば、財政が破綻する。

 目指すべきは、赤木も言うようなスウェーデン型の高福祉高負担の福祉社会だろう。高い税金によりベーシックインカムですべての国民に最低限の生活保障をする。一方で企業には規制緩和で自由競争をさせ、生産性を高める。同一労働同一賃金で、生産性の低い企業は淘汰させる。溢れた労働者は、職業訓練を施し生産性の高い企業に送り込む。雇用を守るのではなく、人を守るための社会保障だ。解雇されても生活の不安がない社会、社会福祉と経済成長を両立させる社会を作らなければならない。

 問題は、こうした社会をどうやって実現するかだ。 赤木は、「雇用を守れ」「年金を守れ」という発想しかできない日本の労働組合や左派の意識が変わらない限り、日本の社会を変えることは無理だとあきらめている。彼とて、本当は「人の死を望まなくても、社会を変えられる」と思いたいのだ。だから彼はこの本の最後に、わずかでもいいから貧困若者への「親切心」「思いやり」を持って欲しいと祈っている。

 困難ではあるが、少しずつではあっても国民に語り掛け、同志を増やしていくしかないのではないか。今のまま格差が拡大していったら、将来、日本の社会が酷い状態になることや新しい社会はどうあるべきかを訴えるのだ。同じ考え方の人たちは、決してゼロではないと思う。自分に出来ることは僅かだが、応援したいと思う。

関連記事:

「成熟日本の進路」を読む:http://mickeyduck.cocolog-nifty.com/blog/2012/07/post-0b67.html

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