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2013年9月 7日 (土)

「ナショナル・アイデンティティと領土」を読む

佐藤成基「ナショナル・アイデンティティと領土―戦後ドイツの東方国境をめぐる論争」2008新曜社を友人に勧められて読んだ。

  戦後ドイツが東西に分割されただけでなく、領土の1/4を失ない14百万人のドイツ人が被追放者となった悲劇を全く知らなかった。ソ連が領土拡張のためポーランド国境をドイツ領内に移動したためだ。戦後ドイツはこの国境を暫定としていたが、1970年ブラント政権は国境線を承認し領土を放棄した。但し法的には、戦前の帝国が存続したため、被追放者の抵抗の拠り所となり、90年の東西統一、国境条約締結まで論争が続いた。何故、ドイツは領土放棄ができたのかを克明に追跡した大変貴重な研究だ。ドイツの過去の克服のしかたに感銘を受けた。

  代償として領土を放棄することが、ポーランドとの和解、欧州平和への貢献、諸外国との友好関係、国際的信頼の回復を進め、国の行動の選択肢を広げ、結果的に国益に繋がるという政策が幅広く支持されたわけだが、その前提にはドイツ人の公共的規範の枠組みとして、ナチス犯罪の克服という義務の観念に依拠するホロコースト・アイデンティティが広く受け入れられたからだと著者はいう。それに対し自らが起こした戦争を未だ総括できず、米国の威の蔭に隠れて国際社会で存在感を発揮できない日本のアイデンティティとは一体何なのか考えさせられた。

  この本では、補論として日本の北方領土に触れているが、シュミット元首相の意見に依りながら、固有の領土論に拘らず、現実の認識に基づいて、戦争に敗れたという事実を「深く理解」した上で、領土返還がどれほどの「国益」になるかのかを再検討してみても良いのではと提言している。国際的には、歴史的に見て固有の領土という論理は領土要求の根拠にならず、国際法的な規定がより重視されるという。大変勉強になった。

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