「イギリスとヨーロッパ 日本とアジア」を考える
昨日の市民講座で、木畑洋一氏の「イギリスとヨーロッパ 日本とアジア」という話を聴いた。「英国のEU脱退の可能性も取り沙汰されているなか、なぜ英国は欧州統合に距離を置くのか、その歴史的背景を探る。また、同じ島国として日本とアジアの関係について考える。」という二つのテーマだったが、後半のテーマについては余り良く分からなかった。
英国とEUとの関係の歴史について丁寧な説明があった。なぜ英国は欧州統合に距離を置くのかという問いに対する答えは、「英国人にとっては、欧州よりも英帝国=英連邦や英語国=米国の方が近い存在だから」ということだった。
60年代に、植民地の独立やEECの発展を見た英国は、経済のためにEECへの加盟 を申請したが、ド・ゴール仏大統領は、「英国は米国の『トロイの木馬』」だとして拒 否した。ド・ゴールが去った後、70年に3度目の加盟申請をしてやっとEC加盟が決ま った。
1975年にECへの残留を掛けた国民投票が行われたが、残留支持票が反対票の倍あっ た。しかし、80~90年代の通貨統合や為替相場メカニズムの動きには消極的で、結局 現在もポンドの独立性を維持している。サッチャーの演説に見られるように、ヨーロ ッパ共同体とは、独立した主権国家間の積極的な協力関係としか見ていない。世論も ユーロ参加に対しては60%が反対しており、ユーロ危機後の13年には74%が反対した 。国家志向が強いのだ。あるいは世界に築いた帝国のプライドが残っているのだろう か。
1993年、EUが発足、EUは拡大し続けている。英国も加盟し続けているが、統合へ の消極的世論は根強く、欧州議会でもEU脱退を説く英国独立党が得票を伸ばしている 。小康状態だとは言え危機が続くEUも、EUと英国との関係も不安定でどうなるか、 まだ分からない。
同じ島国だからといっても、英国と欧州、日本とアジアの関係は余りにも違いが大きい。前者は消極的だが、欧州の一員としての意識がある。一方、後者ではASEANはあるが、アジア市民という感覚は全くなく、統合への道は遠い。中国・韓国との間に領土問題や歴史認識問題があり関係は悪化している。日本の針路を考える上で、英国から何をどう学んだらよいのか皆目見当がつかないので質問してみたが、余りはっきりしなかった。それは自分で考えよということだろう。
他の参加者から、日本でもめている近隣諸国との戦後の清算について、欧州ではどうなっているかという質問が出て、結局ともに敗戦国であるドイツと日本の比較の話になった。木畑氏から、ドイツは近隣諸国と和解のために主体的努力をしたが、日本はその努力を欠いた、との説明があった。
その件に関しては、コーディネーターの山内久明氏から、日本は冷戦下で米国の傘の下に入ったために、アジアとの和解に積極的でなかったとの補足があったので良く理解できた。日本は戦後一貫して日米関係基軸外交を進めてきたので、アジアとの関係構築を疎かにしてきたのだ。英国は、経済的には独立性に固執しながらも、外交・安全保障政策では98年以降、対米協力一辺倒の姿勢から欧州共通防衛政策への転換をし始めている。木畑氏は、ここは英国に学ぶ必要はないといったが、私としてはこここそ学ぶべきだと思った。
米国の政策自体がアジア重視に変わりつつある今、米国追随一辺倒は米国にとっても迷惑になってきているのだ。日本は外交的・安全保障的にも米国から自立すべきだし、一方でアジアとの協調関係構築を積極的に進めるべきだと思う。
サッチャー元首相のいうように、経済的な協力の共同体と言えども、伝統や文化が違う国民のいる国民国家の主権はなお残すべきであり、国はその国民を守るべきだと思うのだが、経済共同体が、一部大企業のためのものとなり国民が虐げられるようなものにしてはならないことは当然だ。
ただ共同体に加盟することは、人・モノ・カネ・サービスが自由に流通することであり、資本の論理に従って、安い労働者・モノ・サービスが入ってきて国民の生活を圧迫する可能性は大である。そこで国民をいかに守るかが国家の役割のはずである。
その点では、川口マーン恵美氏の「EUとTPPの方向は同じ」として、「TPPにおける日本の立場は、EUでドイツが搾り取られているのと同じ立場」いう鋭い指摘の方が納得性が高い。今学ぶべきは、EUにおける英国よりもドイツだと思った。
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