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2015年9月

2015年9月10日 (木)

2015年8月の読書メーター

読んだ本の数:4冊
読んだページ数:893ページ
ナイス数:185ナイス

スクラップ・アンド・ビルド 羽田圭介 「 スクラップ・アンド・ビルド 」 の感想
 
                            読了日:8月23日

 就活中の若者が実家に戻り、働く母の代わりに祖父の介護をするという話。

 介護は時に家庭崩壊に繋がるような重苦しいテーマだが、これをリアルでありながらユーモラスに描き、読者にある種の浄化をもたらす。

 介護者が老人を過剰に手伝うことや、全身チューブだらけの延命措置は、保身による思考停止の結果であり、逆に老人の自立を妨げ、苦しみを与えると皮肉っている。

 また老人が「死にたい」と言いつつも、本当は「生にしがみついている」ことも見逃さない。介護する方もされる方も、本音では語りづらい微妙な関係性が良く描かれている。 
 作者は、文芸春秋のインタビューで「自分と相容れない人の顔を直接見ることの必要性」が、この作品のテーマだと述べている。
 また朝日新聞では「極端な主張ばかり対立して、話し合いになっていない。でも、どっちでもない中間にある面倒くさいものが、人間には一番大切なんじゃないか」と、問題意識が明確だ。
 
 今後も切実な社会問題を切り離さず、かといってテーマ性に頼り切らずに書く、と述べているから今後も楽しみだ。

 選評でも、描かれた世界が好みでないとした村上龍以外のほとんどの委員が高く評価している。

 ”方法的なスリルがない単線的な小説である以上は、素朴に心を揺さぶるような展開や描写がもっと欲しいとは、思った”ものの最後は評価した奥泉光よりは、”自分の中の様々な「へん」を、誰もがささえきれず、苦闘していいる。小説は、その面白さと困難さ、矛盾をどうにかして、描こうとしてきた”という川上弘美の選評に賛同。”自分の家族の中にも、こういう感じってあるある”というリアルさは、介護経験者には痛いほど分かる。それを一捻りしてボケてみせ、笑わせるところが素晴らしかった。




火花 又吉直樹 「 火花感想

                           読了日:8月19日

 若手漫才師徳永が、師匠と憧れる先輩芸人神谷との交流を通して、競争が厳しい漫才の世界の内側を描く。

 テーマは、世間を無視して純粋に面白さを追求する神谷の感覚的な生き方と、売れるために世間に対する印象を大事にしたい徳永の常識的な生き方の選択。

 前者には終わりがないが生活が成り立たず、後者では売れても終わりが来るという矛盾。恐らく芸人としての作者自身がその間で悩み揺れ動いているのだろう。

 表現のうまさに比べ、内容は理屈っぽくて余り面白さも感動もなかった。冷静な徳永よりも、崩壊して行く神谷の方に惹きつけられた。
 徳永が、悩み揺れ動いた後に得た結論も、常識的だった。
 ”リスクだらけの舞台に立ち、常識を覆すことに全力で挑める者だけが漫才師になれるのだ。それがわかっただけでもよかった。この長い月日をかけた無謀な挑戦によって、僕は自分の人生を得たのだと思う。”
  ”神谷さんから僕が学んだことは、「自分らしく生きる」という、居酒屋の便所にあるような単純な言葉の、血の通った激情の実践編だった。”

 文芸春秋で選評とともに読んだが、「火花」への評価はやはり二つに分かれていた。

 「『火花』の成功は、神谷ではなく、”僕”を見事に描き出した点にある」とする小川洋子の評価よりも、村上龍の言う「作者の伝えたかったことが途中で分かってしまう」「不思議な魅力を持つ過剰や欠落がない」、あるいは奥泉光のいう「笑芸を目指す若者たちの心情への掘り下げがなく、何か肝心のところが描かれていない印象を持った」といった評価の方がしっくりくる。
 

わたしたちが孤児だったころ (ハヤカワepi文庫) カズオイシグロ わたしたちが孤児だったころ」 感想

                           読了日:8月14日


 前半は何が主題でどう読んだらいいのか、詳細に描かれた枝葉部分が多いので分かり難かった。

 少年時代を上海租界で過ごした主人公が、孤児となってイギリスに戻るキッカケとなった両親失踪事件を、著名な探偵となってから自ら解決しようと上海に乗り込む話。

 主人公が引き取った孤児の女の子がタイトルの「わたしたち」の由縁だが、内容のイメージに合わない。

 少年時代の記憶に残る出来事と事件との真実の繋がりが一気に明かされ面白いのだが、展開にやや無理があり昂揚感が削がれる。

 だがアヘンをめぐる上海租界の状況には興味を引かれた。

 作者は、当時のイギリス経済がアヘンの密貿易で成り立ち、少年の生活が貿易会社からの給料で成り立つという矛盾を描きたかったのかもしれない。

 中国人の反アヘン運動に賛同するイギリス人がいたことは救いだが、善意だけでは経済に勝てない。主人公が上海に乗り込んだ1937年当時は、日本軍が蒋介石の国民党政府軍を攻撃し始めたころ。ネット検索で、蒋介石も日本軍もアヘンの利権を奪い合ったのだと知って、悲しくなった。

 「満州は何によって支えられていたか、その下部構造を書かなければいけない。換金作物は阿片だけ。日中戦争とは20世紀の阿片戦争。関東軍と蒋介石が阿片を奪い合ったゲームだったのです。」
            (佐野真一『阿片王 満州の夜と霧』)



概念デザイン・メソドロジーによるコンセプト・メイキングの作法 山口泰幸
概念デザイン・メソドロジーによるコンセプト・メイキングの作法」の感想

                           読了日:8月9日

 「優れたコンセプトから優れた商品・作品が生まれる」という今日では当たり前になった考え方に基づき、優れたコンセプトの作り方、その前段の情報収集の仕方、コンセプトに合致したデザイン表現の方法についてまとめたもの。

 3つのプロセスをさらに11の状況・節目に分解し、ロジカルに展開。

 創造的なアイディアが論理から生まれるわけではないが、主体的に作った”創造場”に身を浸して情報やイメージのシャワーを浴びれば”降りて”くるという説明に納得。コア・コンセプトとそれを支える複数の柱のパッケージの考え方も良く整理されている。
 
 コンセプチュアル・パッケージの事例の中では、金沢21世紀美術館の分析が良かった。

●コア・コンセプト→「まちに開かれた公園のような美術館」
●柱1→世界の「現在(いま)」とともに生きる美術館
●柱2→まちに活き、市民とつくる、参画交流型の美術館
●柱3→地域の伝統を未来につなげ、世界に開く美術館
●柱4→こどもたちとともに成長する美術館
●デザインの方向性1→多方向性=開かれた円形デザイン
●デザインの方向性2→透明性=出会いと開放感の演出
●デザインの方向性3→水平性=街のような広がりを生み出す各施設の配置
 リタイアして忘れかけていた仕事への興味が湧いてきてしまい、手に取った本。一気に読んでしまった。

 どうしたら斬新なアイディア、魅力的なアイディアが生み出せるか、ということへの関心からだが、どうも現役時代の悩みを今もどこかに引き摺っているようだ。



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