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2016年3月

2016年3月12日 (土)

2016年2月の読書メーター


読んだ本の数:3冊
読んだページ数:625ページ
ナイス数:185ナイス

異類婚姻譚
■ 本谷有希子 「異類婚姻譚

 ”ある日、自分の顔が旦那の顔とそっくりになっていることに気が付いた。”という書き出しから引込まれた。

 平凡な専業主婦の日常を明るくユーモラスに描いているが、そこには夫婦関係や親しい人間関係の問題が鋭く浮き彫りにされている。

 どんなに親しくても、完全には理解しあえない他人だとわきまえよとのメッセージ。べったり付き合うと、「蛇ボール」のように共食いしあって自分を失うからだ。

 結末は意外性に富んで、しかも美しい。ほっとした気持ちにさせるのは、二人がそれぞれ自分の場所を見つけたからだろう。

第154回芥川賞受賞作。


 夫婦関係は難しい。私自身、夫婦の時間も自分だけの時間も大切にして、その二つをバランスさせているつもりだが、時にそれが崩れてイライラすることもあるからだ。

 この旦那の場合、悪いのはだらしないことよりも、常に妻を自分の時間に巻き込んだり、妻の時間に入り込んだりしようとしたことだろう。

 妻が常に同類とは限らない。巻き込まれつつあった妻の「蛇ボール」からの脱出劇がこの作品のテーマだが、「顔が似る」とか「目鼻が崩れる」といった心理的にはあり得そうな兆候を通してその危機感を巧みに表現している。


 芥川賞選評では、すべての委員の高評価を得たが、物語のラストに関しては評価が分かれた。

 奥泉氏の”異界への感覚が描き切れていない”、川上氏の”作者にも予想できない「のび」のようなものがなかった”、というのはきれいにまとまりすぎたことへの批評か。

 私はさほど「薄気味悪さ」を感じなかったが、高木のぶ子の”「美と不気味さ」は「譚」の成立要素であり、日本説話の伝統から流れ来る地下水脈でもある。”との批評には教えられた。

 奥泉氏の言うように、この作品は”説話の枠組みの中へ現代風俗を巧みに落とし込んだ”ものらしい。

読了日:2月25日


石油・武器・麻薬 中東紛争の正体 (講談社現代新書)
■ 宮田律 「石油・武器・麻薬 中東紛争の正体」


 著者は、現代イスラム研究センター理事長。

 本書は、中東での紛争やテロがなぜ起こり、欧米や露・中がどう関わり、日本はどう関わるべきかを明らかにしている。

 武力による少数派支配、石油による富の独占と国民の貧窮、支配層の宗派の違いによる中東諸国間の対立、欧米諸国による石油利権の争奪戦、戦争を助長し戦争で潤う米英仏露の軍産複合体、中東国民を避難民かIS兵士に追い込む戦争といった構造が、丁寧に説明されており説得力がある。

 日本は、戦争依存の米国に軍事協力するのではなく、中東諸国の民生安定を支援すべきと説く。賛成だ。


 ”人は十分におなかを満たすことができなければ、食をめぐって争いを起こす。”

 ”「武力で平和はつくれない」―安保方案が成立したいま、私たち日本人は国際平和への関与の在り方を食の安全保障という観点からも真摯に考える必要があるだろう。”


 年商約4兆円と世界最大のアヘン生産地アフガニスタンでは、米軍統治下になって生産量が増加。

 米国の軍事費は連邦予算の55%。

 世界の武器市場の31%は米国製、うち32%は中東へ。

 米国石油企業をイラクの石油に絡ませるために始めたイラク戦争がISを生みだすきっかけ。

 儲かれば何でも売る。国のため民主主義のためという大義名分の裏で私利私欲追及。

 そんな欧米の経済原理よりも、紹介されている現代イスラム経済思想の利子・投機・浪費の禁止や喜捨による貧者救済の方がはるかに倫理的だ。だから腐敗した特権者へのムスリムの怒りは大きい。
読了日:2月20日


早春 その他 (文春文庫)
■ 藤沢周平 「早春 その他


 作者唯一の現代小説と知り興味深く読んだ。

 妻を亡くし娘と暮らす老サラリーマン岡村の話。

 会社では窓際族。長男に続いて娘も家を出る。馴染みのスナックも閉店。

 人間は所詮死ぬときは一人。早春の午後に吹く風の冷たさに象徴される孤独な人生の寂寥感が全体を貫いている。深夜の無言電話も孤独な人間の狂気の表現である。

 時代小説の中で現代に通底する人間の生き方や生きることの大変さを描く作者だが、家族や社会の絆の崩壊と孤立した個人の状況は、さすがに現代小説でしか描けなかったのだろう。人間の孤独感を描くことで現代を描いている。


 ”子供や家に対するあの熱くてはげしい感情は何だったのだろう。こんなふうに何も残らずに消えるもののために、あくせくと働いたのだろうか。窓の光はいつの間にか消えて考えに沈んでいる岡村を冷えた闇の中に取り残した”


 本書には2篇の時代小説と4篇の随筆が収録。

 小説はともに藩の派閥争いと敵の不正を暴き討つというテーマで、すっきり爽快な小説。

 随筆では「小説の中の事実」で、想像力で作る小説と言えども、リアリティを持たせるためにいかに多くの事実を集め、不足分を推理して書いているかが分かり、その大変さが知れた。

 「遠くて近い人」は司馬遼太郎のことだが、尊敬しつつもあまり読んでいないと言い訳している。

 エリートの成功譚を描く司馬と普通の人の暮らしを描く作者の違いがここにも表れていて面白かった。
 
読了日:2月5日

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